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デシル分析で何がわかる?意味やABC分析との違い、活用例を紹介
2026.05.26
2026/5/26 15:05
戦略・フレームワーク
統計
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マーケティング

多くの企業において、限られたマーケティング予算やリソースをどのように配分すべきかという課題は常に存在します。すべての顧客に対して一律の施策を行っていては、費用対効果が十分に得られないケースも少なくありません。こんなときに有効となるのが、顧客を売上貢献度に応じてグループ分けし、それぞれのグループに最適なアプローチを検討する手法です。そしてその代表的な手法として挙げられるのがデシル分析です。
今回は、デシル分析の基本的な意味や、混同されやすいABC分析との違い、具体的な計算手順、そして企業が自社の戦略に落とし込むための活用例について詳しくご紹介します。
[[筆者|ちなみに「デシル」は「デシリットル」や「デシベル」の”デシ”と意味合いは同じです。解説します]]
- デシル分析とは?基礎知識と分析の目的を解説
- デシル(Decile)の意味とデータ分割の仕組み
- デシル分析が必要な理由
- デシル分析で何がわかる?主なメリット
- 売上の大部分を占める優良顧客の特定
- 顧客グループごとの売上貢献度の可視化
- 有限なマーケティングリソースの最適配分
- デシル分析とABC分析の違いとは?使い分けのポイント
- 購入金額(デシル)と累積売上割合(ABC)
- 分析対象の違い:顧客軸の分析と商品・在庫軸の分析
- 経営状況に応じた使い分けのシチュエーション
- デシル分析の具体的な手順と計算例【実践】
- ステップ1:顧客ごとの購入金額データの集計
- ステップ2:購入金額順の並び替えと10等分へのグループ分け
- ステップ3:各グループの売上構成比と累積売上構成比の算出
- デシル分析の計算シミュレーション
- デシル分析を自社の戦略に落とし込む活用事例
- 事例1:BtoC ECサイトにおけるリピート率向上のためのアプローチ
- 事例2:中小規模の店舗ビジネスにおける販促コスト削減の取り組み
- デシル分析を実際に活用させるにはどうすべきか
- デシル分析を行う際の注意点と限界
- 過去の一時的な大口購入を優良顧客と誤認するリスク
- 直近の購買行動や購入頻度が考慮されない点への対策
- 顧客の離脱(休眠化)を察知しにくい構造的課題
- デシル分析の効果をさらに高める手法「RFM分析」との組み合わせ
- RFM分析(Recency・Frequency・Monetary)の概要
- デシル分析の弱点をRFM分析で補完する方法
- 優良顧客を維持し、低位グループを底上げするハイブリッド戦略
- デシル分析を活用して効率的なマーケティング戦略を
- マーケティングについてコチラもおすすめです【関連記事】
デシル分析とは?基礎知識と分析の目的を解説
まずはじめに、デシル分析の基本的な概念と現在のビジネス環境においてデシル分析が重視されている理由について解説します。データ分析の第一歩として、まずは仕組みを正確に把握していきましょう。
デシル(Decile)の意味とデータ分割の仕組み
デシル分析は、すべての顧客を評価基準に沿って10等分にグループ分けし、それぞれのグループの特性を把握するための分析手法です。デシルとはラテン語で10分の1を意味する言葉に由来しています。
具体的な仕組みですが、以下のように進めます。
①ある一定期間内に自社の商品やサービスを購入したすべての顧客を、購入金額の高い順に並び替える。
②顧客の総数を上から順番に10等分の同じ人数になるように切り分ける。
③最も購入金額が高い上位10パーセントの層をデシル1、次の10パーセントをデシル2、と数え、最も購入金額が低い下位10パーセントの層がデシル10となる。
デシル分析の特徴として、売上の金額そのものではなく、顧客の人数を基準にして均等に10個のグループを作ります。
デシル分析が必要な理由
多くの企業において、顧客一人ひとりの購買データを蓄積することは日常的な業務となっています。しかし、そのデータを実際の経営戦略やマーケティング施策に活かしきれている企業は必ずしも多くありません。
[[筆者|「売上を伸ばすために全員に対して一律の割引クーポンやダイレクトメールを配信しているが、期待したほどの費用対効果が得られない」という相談を受けることがあります]]
すべての顧客に対して一律の施策を行う手法は、マーケティングコストを増大させる要因になります。
デシル分析が必要とされる理由は、限られた経営リソースを最も効果的な場所に集中させるためです。データに基づく客観的な判断を行うことで、どの顧客層が自社の利益を支えているのかを明確にし、投資の無駄を省くことが可能になります。
データを経営に活用している企業とそうでない企業では、売上高や労働生産性に格差が生じています。直感や経験だけに頼る経営から脱却し、数字に裏付けられた戦略を立てるために、デシル分析を有効活用しましょう。
デシル分析で何がわかる?主なメリット
次に、デシル分析を実行することで具体的にどのようなビジネス上のメリットが得られるのかを確認していきましょう。デシル分析によって可視化される要素は主に3つあります。
・優良顧客の特定
・売上貢献度の可視化
・リソースの最適配分
ではそれぞれ詳しくみていきましょう。
売上の大部分を占める優良顧客の特定
デシル分析を行う最大のメリットは、自社の売上を支えている上位の優良顧客層を数値として明確に特定できることです。
ビジネスの世界では、売上の8割は全体の2割の顧客によって生み出されているというパレートの法則がよく知られています。デシル分析を行うと、この法則が自社にも当てはまっているかどうかが一目で判別できます。
例えば、デシル1とデシル2の合計20パーセントの顧客が、自社の総売上の何パーセントを占めているかを正確に割り出すことが可能です。
実際に多くの企業で分析を行うと、上位20パーセントから30パーセントの顧客だけで、総売上の大半を構成しているケースが見られます。
顧客グループごとの売上貢献度の可視化
デシル分析では、10個の各グループが総売上に対してどれくらいの割合で貢献しているかという売上構成比を可視化できます。
例えば、デシル1のグループの売上構成比が40パーセント、デシル2が20パーセント、デシル3が15パーセントというように、各層の具体的な影響力が判明します。これにより、自社のビジネスが特定の上位層に過度に依存している状態なのか、あるいは比較的幅広い層からバランスよく売上が上がっているのかという、経営の安定性を評価する材料が得られます。
全体の売上金額という大まかな数字だけを見ているときには気づけなかった、顧客構造の歪みや特徴を把握できる点が大きなメリットです。
[[筆者|上位層への依存が大きいと、例えばその上位層が倒産してしまった場合、共倒れになる、ということもあり得ます]]
有限なマーケティングリソースの最適配分
マーケティング予算や人員といったリソースは有限です。デシル分析は、その貴重なリソースをどこに集中投下すべきかの判断基準を提供します。
例えば、売上への貢献度が極めて低いデシル9やデシル10の層に対して、一律で高コストなパンフレットを郵送するような施策は、費用対効果が低くなる可能性が推測されます。一方で、売上の多くを占めるデシル1やデシル2の層に対して、限定のノベルティや先行案内といった特別なコストをかけることは、非常に高いリターンを期待できる施策となります。
各グループの売上貢献度に応じたコスト配分を行うことで、全体のマーケティング費用を抑えつつ、売上の維持や拡大を目指すことが可能になります。
デシル分析とABC分析の違いとは?使い分けのポイント
つづいて、デシル分析とよく混同される分析手法であるABC分析との違いについて解説します。2つの手法は、データの切り口や目的が異なるため、適切に使い分けることが重要です。
主に、
・グループ数
・購入金額と累積売上割合
・顧客軸と商品在庫軸
などの違いがあります。詳しくみていきましょう。
購入金額(デシル)と累積売上割合(ABC)
デシル分析とABC分析の違いは、グループに分割する際の基準にあります。
デシル分析は、先述の通り顧客の人数を基準にして、上から10等分に均等な人数でグループを分けます。そのため、各グループに所属する顧客の人数は常に一定です。
ABC分析は、売上高などの累積構成比を基準にしてグループを分けます。
一般的には、累積売上の上位70パーセントをAグループ、70パーセントから90パーセントをBグループ、90パーセントから100パーセントをCグループというように、売上の割合に応じて3つのグループに分類します。このため、各グループに所属する顧客数や商品数は均等にはならず、Aグループの人数は少なく、Cグループの人数が非常に多くなるといった現象が起こります。
購入金額順に顧客を並べ、人数が均等(10等分)になるよう10グループに分割。
各グループの人数は「常に一定」
売上高の累積構成比を基準に、売上貢献度で3グループ(A・B・C)に分割。
各グループの人数は「バラバラ」
分析対象の違い:顧客軸の分析と商品・在庫軸の分析
もう一つの違いは、分析の対象となる軸の性質です。
デシル分析は、基本的に顧客一人ひとりの購入金額をもとにして行うため、顧客軸の分析手法と言えます。どの顧客がどれだけのお金を支払ってくれたかに焦点を当て、顧客との関係性やマーケティング施策を検討する際に用いられます。
これに対してABC分析は、顧客を対象にすることも可能ですが、一般的には商品軸や在庫軸の分析で広く活用されています。どの商品が売上の中心を担っているかを把握し、売れ筋のAグループ商品は在庫切れを起こさないように手厚く管理し、売れ行きの悪いCグループ商品は発注を減らすといった、在庫管理の最適化に強みを持っています。
[[筆者|顧客を分析するデシル分析。商品も顧客も在庫も分析するABC分析、というイメージです]]
経営状況に応じた使い分けのシチュエーション
自社の課題を解決する際、どちらの分析手法を採用すべきかは現在の経営状況や目的によって判断します。
顧客との長期的な関係性を築き、リピート率や顧客生涯価値を高めたいと考えている場合は、デシル分析を選択するのが適切と言えます。顧客の購買力に応じた適切なコミュニケーション設計が可能になるからです。
一方で、店舗や倉庫のスペースが限られており、デッドスペースや過剰在庫を削減してキャッシュフローを改善したいという明確な課題がある場合は、商品や在庫を対象としたABC分析を優先して実施するのが効果的と考えられます。
それぞれの分析手法の特徴をまとめた以下の比較表を確認し、自社の目的に適した手法を選択してください。
比較項目 | デシル分析 | ABC分析 |
|---|---|---|
グループ数 | 10グループ | 3グループ(A、B、C) |
分割の基準 | 顧客数を10等分(均等) | 累積売上の構成比率(不均等) |
主な分析対象 | 顧客(人) | 商品、在庫、顧客 |
主な活用目的 | 優良顧客の特定、販促の最適化 | 在庫管理の効率化、売れ筋商品の把握 |
デシル分析の具体的な手順と計算例【実践】
それでは、実際に自社のデータを使ってデシル分析を行うための具体的な手順と、わかりやすい計算の例をご紹介します。ステップに沿って進めることで、表計算ソフトなどでも比較的容易に算出が可能です。
①顧客別の購入金額データ集計
②並び替えと10等分
③構成比の算出
上記3ステップで進め、以下のような完成形を目指します。
グループ | 顧客数 | グループ内合計売上 | 売上構成比 | 累積売上構成比 | 1人あたり平均購入額 |
|---|---|---|---|---|---|
デシル1 | 10人 | 450万円 | 45.0% | 45.0% | 45万円 |
デシル2 | 10人 | 200万円 | 20.0% | 65.0% | 20万円 |
デシル3 | 10人 | 120万円 | 12.0% | 77.0% | 12万円 |
デシル4 | 10人 | 80万円 | 8.0% | 85.0% | 8万円 |
デシル5 | 10人 | 50万円 | 5.0% | 90.0% | 5万円 |
デシル6 | 10人 | 40万円 | 4.0% | 94.0% | 4万円 |
デシル7 | 10人 | 30万円 | 3.0% | 97.0% | 3万円 |
デシル8 | 10人 | 15万円 | 1.5% | 98.5% | 1.5万円 |
デシル9 | 10人 | 10万円 | 1.0% | 99.5% | 1万円 |
デシル10 | 10人 | 5万円 | 0.5% | 100.0% | 0.5万円 |
合計 | 100人 | 1000万円 | 100.0% | - | 10万円 |
それでは順を追って確認していきましょう。
ステップ1:顧客ごとの購入金額データの集計
分析対象となる期間を決めて、その期間内に購入のあった顧客ごとの購入金額を集計します。
期間の設定はビジネスモデルによって異なりますが、一般的には直近の3ヶ月、半年、あるいは1年間といった単位で設定します。例えば、季節による変動が大きいビジネスであれば、1年間という長期のデータを用いた方が全体の傾向を捉えやすくなります。この段階で、顧客IDと、その期間内の合計購入金額が紐づいたリストを作成します。
ステップ2:購入金額順の並び替えと10等分へのグループ分け
集計したデータを元に、購入金額が多い順に顧客を並び替えます。そして、全顧客数を10で割り、1グループあたりの人数を算出します。
例えば、対象期間内に購入のあった顧客の総数が100人であれば、1グループあたり10人となります。上から10人ずつ区切っていき、最初の10人をデシル1、次の10人をデシル2、というようにデシル10まで割り振っていきます。顧客数が10で割り切れない場合は、端数を上位グループや下位グループに調整して配置します。
ステップ3:各グループの売上構成比と累積売上構成比の算出
それぞれのグループの合計購入金額を計算します。すべてのグループの合計金額(全体の総売上)に対する、各グループの売上構成比を算出します。
さらに、デシル1から順番にその構成比を足していった累積売上構成比も計算します。これにより、デシル何番目までのグループで全体の売上の何割に達しているかが客観的な数値として把握できるようになります。
デシル分析の計算シミュレーション
手順をより明確にするため、顧客数が100人、期間中の総売上が1000万円という簡易的な仮想データを用いたシミュレーション例を確認していきましょう。1グループあたり10人ずつが所属することになります。
グループ | 顧客数 | グループ内合計売上 | 売上構成比 | 累積売上構成比 | 1人あたり平均購入額 |
|---|---|---|---|---|---|
デシル1 | 10人 | 450万円 | 45.0% | 45.0% | 45万円 |
デシル2 | 10人 | 200万円 | 20.0% | 65.0% | 20万円 |
デシル3 | 10人 | 120万円 | 12.0% | 77.0% | 12万円 |
デシル4 | 10人 | 80万円 | 8.0% | 85.0% | 8万円 |
デシル5 | 10人 | 50万円 | 5.0% | 90.0% | 5万円 |
デシル6 | 10人 | 40万円 | 4.0% | 94.0% | 4万円 |
デシル7 | 10人 | 30万円 | 3.0% | 97.0% | 3万円 |
デシル8 | 10人 | 15万円 | 1.5% | 98.5% | 1.5万円 |
デシル9 | 10人 | 10万円 | 1.0% | 99.5% | 1万円 |
デシル10 | 10人 | 5万円 | 0.5% | 100.0% | 0.5万円 |
合計 | 100人 | 1000万円 | 100.0% | - | 10万円 |
このシミュレーション結果の見方として、いくつかの顕著な事実が判明しています。まず上位であるデシル1の10人だけで全体の45パーセントの売上を作っており、デシル2までを合わせると20人の顧客で全体の65パーセントの売上を占めていることがわかります。
一方で、下位のデシル8からデシル10までの合計30人による売上は、全体のわずか3パーセントに過ぎません。このようなデータが得られた場合、次の戦略としてどのような手を打つべきかが明確になっていきます。
デシル分析を自社の戦略に落とし込む活用事例
つづいて、デシル分析の結果を実際の経営やマーケティングの現場でどのように戦略に落とし込んでいくのか、具体的な活用事例を挙げてご紹介します。
事例1:BtoC ECサイトにおけるリピート率向上のためのアプローチ
アパレルや化粧品などを扱うBtoCのECサイトを運営する企業における事例を想定します。
例:
ECサイトの顧客数が伸び悩み売上が低迷しており、現状の顧客数では売上は頭打ちと考えられていた。
デシル分析:
デシル分析を行った結果、デシル1とデシル2の顧客層が全体の売上の60パーセント以上を占めていることが判明した。
売上への貢献度が高いデシル1とデシル2の顧客を維持するために、一般向けには非公開の限定セールへの招待や、新商品の先行予約受付、配送料の常時無料化といったロイヤルティを高める施策を実施。
同時に、デシル3やデシル4に位置する「あと少しで優良顧客になりそうな層」に対しては、次回の購入時に使える特別なポイントアップキャンペーンの案内を送付し、上位グループへの引き上げを図った。
結果:
全体の顧客数を大幅に増やすことなく、既存顧客の買い替え頻度を向上させ、安定的な売上基盤を構築することに成功。
[[筆者|もちろん必ずしも成功するわけではありませんが、成功から逆算して進める際にデシル分析を用いることができるということです]]
事例2:中小規模の店舗ビジネスにおける販促コスト削減の取り組み
地域密着型で複数の店舗を展開する小売業のマネージャーが直面しがちな、販促コストの課題の解決例をご紹介します。
例:
A店舗では、これまで毎月のように全会員に対して一律で紙のダイレクトメールを郵送していた。しかし、印刷代と郵送費の負担が重く、利益を圧迫しているという課題があった。
デシル分析:
デシル分析を導入したところ、デシル7からデシル10の下位40パーセントの層からは、ほとんど売上が発生していないことが視覚化された。
課題を解決するため、店舗マネージャーは以下のようなステップで施策を実施。
ステップ1:
デシル7からデシル10の顧客への紙のダイレクトメール発送をすべて停止し、コストの低いメールマガジンや公式アプリでの通知へと切り替える。ステップ2:
削減された分の郵送費予算の一部を、デシル1からデシル3の上位層に対するプレミアムイベントの招待状の送付へと回す。ステップ3:
上位層への個別対応を強化した結果、店舗への来店頻度と購入単価が向上する。
結果:
全体の販促費を約30パーセント削減しながらも、上位顧客の維持と単価アップに成功し、店舗全体の営業利益率が大幅に改善された。
[[筆者|リソースを削減できたパターンの例です。デシル分析の結果をもとにリソースを集中させることで、分散していた時よりも全体として節約できる場合があります]]
デシル分析を実際に活用させるにはどうすべきか
経営者や事業責任者がデシル分析を社内に定着させようと考えた際、単に「デシル分析をやっておいてほしい」と指示を出すだけでは、現場はデータを業務的に集計しただけで活用まで至らないです。分析結果をもとにどのようなKGIやKPIを設定するのかという視点を明確に伝える必要があります。
具体的には、デシル1の平均客単価を現状から何パーセント維持、あるいは向上させるか、またデシル3からデシル2へ何人の顧客をランクアップさせるかといった、行動に直結する目標値を提示する必要があります。分析は手段であり、目的はリソースの最適化による利益の最大化であることを現場と共有していくことが重要です。
[[筆者|データが何を意味するのかを理解するのは簡単ではありません。まずは明確に指示を出し、徐々にスキルとして身につけさせていきましょう]]
デシル分析を行う際の注意点と限界
デシル分析を行う際に注意しておくべきリスクや、構造的な限界について解説します。データの一側面だけを見て誤った経営判断を下さないために、これらの特徴を事前に理解しておく必要があります。主に以下が注意点です。
・優良顧客誤認
・直近の情報が考慮されない
・離脱の察知困難性
それぞれ詳しく解説していきます。
過去の一時的な大口購入を優良顧客と誤認するリスク
デシル分析は設定した期間内の合計購入金額だけで顧客を評価するため、購入の回数や文脈が無視される傾向があります。
例えば、たまたまギフト用として1回だけ10万円の高額商品を購入し、その後は二度と来店していない顧客がいたとします。一方で、毎月5000円の商品を欠かさず購入し続けてくれている年間合計6万円の顧客がいます。
この2人を直近1年間のデータでデシル分析にかけると、1回しか買っていない前者の顧客の方が上位グループ(デシル1など)にランクされ、毎月来てくれる後者の顧客がそれよりも低いグループに配置されてしまう現象が発生します。
過去の一時的な大口購入者を現在の優良顧客であると誤認し、高コストな追客施策を行っても、すでに離脱している可能性が高いため、費用対効果が悪化するリスクが推測されます。
直近の購買行動や購入頻度が考慮されない点への対策
デシル分析は、顧客が最後にいつ購入したかという時間の概念(新しさ)や、何回購入したかという頻度が計算に含まれていません。
3年前を最後に一切購入がないものの、過去に累積で大金を使ってくれた顧客と、今月初めて入会して毎週のように購入してくれている顧客が、合計金額の数値だけで同じグループに並んでしまうことがあります。企業にとって本当に手厚くフォローすべきは現在の動向が活発な顧客ですが、デシル分析の仕様上、それらを見分けることが困難です。
この対策としては、分析対象とする期間を直近の3ヶ月や6ヶ月といった短いスパンに区切って定期的に分析を回すことや、後述する別の分析手法を組み合わせて補完することが効果的と考えられます。
[[筆者|とりあえずたくさんデータがあるほうが良いんでしょ?ときかれることがありますが、必ずしもそうではありません]]
顧客の離脱(休眠化)を察知しにくい構造的課題
顧客が競合他社に乗り換えたり、自社のサービスを利用しなくなったりする離脱の兆候を、デシル分析の数字だけで察知することは容易ではありません。
デシル1に位置する顧客の購入が最近途絶えていたとしても、過去の購入金額が大きいため、一定期間はデシル1のグループに残り続けます。現場の担当者が「デシル1の顧客数は安定している」と安心している間に、実はその中身がすでにアクティブではない休眠顧客に置き換わっているという危険性があります。数値の表面的な維持に惑わされず、動的な変化を捉える工夫が必要です。
デシル分析の効果をさらに高める手法「RFM分析」との組み合わせ
つづいて、デシル分析が持ついくつかの弱点を克服し、マーケティング戦略の精度をさらに高めるために非常に有効な手法である「RFM分析」との組み合わせについて解説します。
RFM分析(Recency・Frequency・Monetary)の概要
RFM分析とは、顧客の購買行動を3つの指標を用いて分類し、顧客の現在の状態を立体的に把握する手法です。
R(Recency):最新購買日。顧客が最後にいつ購入したか。
F(Frequency):購買頻度。顧客がどれくらいの頻度で購入しているか。
M(Monetary):購買金額。顧客がいくら費やしてくれたか。
デシル分析がM(Monetary:購買金額)の1軸だけに注目して10等分するのに対し、RFM分析はRとFの要素を加えた3軸で顧客を評価します。これにより、顧客が「今も自社を利用してくれているか」「よく足を運んでくれているか」を詳細に判別できるようになります。
デシル分析の弱点をRFM分析で補完する方法
これら2つの手法を組み合わせることで、デシル分析で見落としがちだったリスクをきれいに補完することができます。
例えば、デシル分析でデシル1(金額上位)と判定された顧客群に対して、RFM分析のR(最新購買日)のデータを掛け合わせます。すると、デシル1の中にも「直近1ヶ月以内に購入があるアクティブな優良顧客」と、「ここ半年以上購入がない離脱危機の優良顧客」という、全く性質の異なる2つのサブグループが存在することが見えてきます。
このように補完を行うことで、前者のアクティブ層には新商品の提案を、後者の離脱危機層には「ご無沙汰しております」といったカムバックを促すクーポンを送るなど、顧客の状態に完全に合致したアプローチを打ち分けることが可能になります。
優良顧客を維持し、低位グループを底上げするハイブリッド戦略
特に中小企業が最も効率よく売上を拡大するためのハイブリッド戦略として、まずはじめにデシル分析で全体の金額的なボリュームと自社の売上構造の歪みを把握します。その後、上位層や中位層に対してRFM分析を適用し、具体的な施策のシナリオを作成していく流れがおすすめです。
金額は大きいが頻度が低い顧客にはまとめ買いのインセンティブを提示し、頻度は高いが金額が低い顧客にはクロスセル(関連商品の合わせ買い)を促すといった、きめ細やかな施策が展開できるようになります。リソースの無駄を極限まで抑えつつ、顧客全員のステージを一つずつ上方に引き上げていくための盤石な体制が整います。
デシル分析を活用して効率的なマーケティング戦略を
デシル分析は、全顧客を購入金額順に並び替えて10等分し、それぞれのグループの売上貢献度を可視化する非常にシンプルで強力な手法です。パレートの法則に代表されるように、自社の売上の大部分がどの上位顧客によって支えられているかを客観的に特定できるメリットがあります。
商品や在庫の管理に適したABC分析とは異なり、顧客軸でのアプローチを最適化し、限られたマーケティング費用を最もリターンの大きい場所に集中投資するために役立ちます。
ただし、購入の時期や頻度が考慮されないという一面もあるため、一時的な大口購入者を優良顧客と見誤るリスクには注意が必要です。この限界を乗り越えるためには、最新購買日や頻度を加味するRFM分析と組み合わせて活用すること重要です。
データ分析は、集計してレポートを作成しただけでは利益を生み出しません。実際の行動を変えていくためのファーストステップとして、まずは直近1年間の顧客購買データをcsvファイルなどでダウンロードし、表計算ソフト等を使って、購入金額の大きい順に並び替えてみましょう。そして10等分してみてください。
自社の顧客構造がどのようになっているのかを事実として把握することが、効率的なマーケティング戦略の構築の第一歩になります。
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当記事の執筆者
CIT経営開発事務所 代表
井上 隆寛(いのうえ・たかひろ)
IT・事業コンサルタント
IT・開発エンジニア
行政書士R6合格者未登録
大手システム開発会社にてフルスタックSE兼Webデザイナーとして従事。2021年にコンサルタントとして独立し、企業に対するITコンサルティング・ソリューション導入支援事業を開始。2023年にはイベント企画・運営事業を新たに展開、2024年には行政書士試験に合格。現在はIT・AIコンサルティング、システム開発、エンターテイメントの3事業を柱に、企業の技術顧問や講師としてICT教育やプログラミング授業も手がける。


