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売却損によるキャッシュフローの節税効果を解説。なぜプラスになるのか図解で段階的に考える
2026.06.16
2026/6/17 05:43
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企業経営において、保有する資産を帳簿価額よりも低い価格で手放して売却損を計上することは、一見すると避けるべき事態に思えるかもしれません。しかし、財務戦略の観点からは、あえて売却損を確定させることが、企業の資金繰りを改善する有効な手段となる場合があります。
本記事では、売却損によるキャッシュフローの節税効果について詳しく解説します。損益計算書上では損失となる取引においてキャッシュフローはなぜ増えるのか、全体を通してキャッシュフローがプラスになるメカニズムから、固定資産や有価証券などの具体的な資産別の判断基準までを段階的に確認していきましょう。自社の財務体質を強化するヒントとしてご活用ください。
[[筆者|なぜ売却時に損をしているのに、CFはプラスと判断するのか、解説していきます]]
※当記事は投資を推奨したり予測するような意図は一切ありません。ファイナンス知識としての解説になりますのであらかじめご注意ください。
- 会計上の利益とキャッシュフローの違い
- 損益計算書の利益と手元資金のズレ
- 非資金費用の代表例とキャッシュへの影響
- 税金支払いとキャッシュアウトのタイミング
- 売却損が発生する仕組みと会計処理
- 固定資産の売却と帳簿価額の考え方
- 有価証券の売却と評価損益の違い
- 不良在庫の処分に伴う損失計上
- 売却損がキャッシュフローを増やす仕組み
- 課税所得の減少による法人税等の削減
- 節税効果による手元資金の確保
- 損益計算書上はマイナスでもキャッシュフローがプラスになる理由
- 売却損に伴う節税効果の計算方法
- 例題
- 解法
- 固定資産の売却損を活用した節税効果
- 遊休資産の売却と資金繰り
- 減価償却費と売却損の税務上の取り扱いの違い
- 売却代金と節税額を合わせたトータルのキャッシュイン
- 有価証券や含み損を抱えた資産の売却判断
- 事業に関係のない投資有価証券の見直し
- 含み損の実現による課税所得の圧縮
- 資金化のスピードと税務申告のタイミング
- 不良在庫の廃棄と売却における税務上の注意点
- 在庫処分の方法と税務署への説明責任
- 廃棄損と売却損のキャッシュフローへの影響の違い
- 期末に向けた在庫見直しと節税シミュレーション
- 売却損を戦略的に活用するための財務管理
- 決算期末における保有資産の評価と計画的な処分
- 黒字決算時における売却損計上のメリット
- キャッシュフロー経営に向けた財務体質の強化
- 売却損計上における税務上のリスクと対策
- 同族会社間取引における売却価格の妥当性
- 形式的な売却とみなされるリスクの回避
- 税理士等専門家との連携による適正な申告
- 経営についてコチラもおすすめです【関連記事】
会計上の利益とキャッシュフローの違い
損益計算書の利益と手元資金のズレ
まずはじめに、損益計算書に表示される利益と、企業が実際に保有している手元資金の金額は一致しないという事実を確認していきましょう。損益計算書は、ある一定期間の収益と費用を対比させて計算上の利益を算出する書類です。
しかし、収益の計上タイミングと現金の入金タイミング、費用の計上タイミングと現金の出金タイミングには時間的な差が存在します。掛け取引による売上や仕入がその代表例です。売上が計上されて利益が増えても、売掛金として回収待ちの状態であれば手元の現金は増えていません。
反対に、仕入を行って費用が発生しても、買掛金として支払いを待ってもらっている間は手元の現金は減っていません。帳簿上の利益が出ているにもかかわらず、手元の現金が不足して黒字倒産に陥る企業が存在するのは、利益と手元資金にズレが生じているためです。
[[筆者|非常にややこしいですが帳簿上の額と実際の額は異なることを知っておきましょう]]

非資金費用の代表例とキャッシュへの影響
つづいて、現金の支出を伴わない費用について解説します。
非資金費用とは、損益計算書上では費用として計上されるものの、実際の現金の流出を伴わない費用のことです。減価償却費が非資金費用の代表例に挙げられます。減価償却費とは、建物や機械などの固定資産の取得費用を、耐用年数に応じて分割して費用計上する仕組みのことです。固定資産を取得した初年度に全額の現金支出が行われますが、費用は数年間にわたって計上されます。
2年目以降は現金の支出がないにもかかわらず費用が計上されるため、会計上の利益を押し下げる効果を持ちます。
利益が減少するということは、利益減少分だけ法人税等の負担が軽減されることを意味します。現金の支出がない状態で税金が安くなるため、結果として手元に残る現金、すなわちキャッシュフローはプラスに働きます。
[[筆者|これが損をしたにもかかわらずCFをプラスと考える理由です。企業にとって売却損が出ることは必ずしも悪いばかりではないということです]]
税金支払いとキャッシュアウトのタイミング
企業が納める法人税等は、基本的には決算期末から2ヶ月以内に申告と納付を行う義務があります。
税金の支払いは明確な現金の流出であり、キャッシュフローを直接的に減少させる要因です。法人の利益に対して課税されるため、利益が大きければ大きいほど納付すべき税額も高くなります。手元の資金繰りが厳しい状況において多額の税金支払いが発生すると、企業の経営を圧迫する要因となります。
税金の支払額を適法な範囲内で抑えることは、手元資金を確保し事業を継続していく上で非常に重要な課題です。
[[筆者|原則として、キャッシュアウトは可能な限り遅く、キャッシュインはできる限り速く行うことが求められます]]
売却損が発生する仕組みと会計処理
固定資産の売却と帳簿価額の考え方
それでは、売却損がどのように発生するのか、売却損が発生する仕組みを見ていきましょう。
企業が保有している土地や建物、機械設備などの固定資産を売却する際、売却金額と帳簿価額を比較して損益を計算します。
帳簿価額とは、資産の取得原価から減価償却累計額を差し引いた、会計上の現在の評価額のことです。固定資産の売却金額が帳簿価額を下回った場合に、売却金額と帳簿価額の差額が固定資産売却損として計上されます。
長期間使用してきた機械設備などは、技術の陳腐化や市場価値の低下により、当初の想定よりも低い価格でしか売却できないケースが多くあります。
[[筆者|設備は基本的には購入した時から価額が下がり続け、いずれゼロになると考えておきましょう。場合によっては廃棄に別途費用がかかることもあります]]
有価証券の売却と評価損益の違い
企業が余剰資金の運用や取引先との関係構築を目的として保有している有価証券についても、売却時に損失が発生する可能性があります。
有価証券の売却損は、売却した価格が取得した時の価格(帳簿価額)を下回っている場合に計上されます。株式市場の変動により保有している株式の時価が取得時よりも大きく値下がりしている状況において、その株式を市場で売却すると、値下がり分が損失として確定します。
決算期末に時価評価を行い評価損を計上するケースもありますが、税務上、評価損は原則として損金に算入されません。損金とは、税金の計算上、収益から差し引くことができる費用のことです。課税所得を減らすためには、実際に売却して損失を確定させる必要があります。

不良在庫の処分に伴う損失計上
製造業や小売業において、長期間販売できずに倉庫に滞留している不良在庫も、損失計上の対象となります。
流行遅れとなった商品や、品質が劣化して正規の価格で販売できなくなった在庫は、企業にとって収益を生み出さない資産です。
不良在庫を廃棄処分、あるいは安価で値引き販売した場合に損失が発生します。廃棄処分を行った場合は、在庫の帳簿価額の全額が廃棄損となります。値引き販売を行った場合は、帳簿価額と販売価格の差額が売却損となります。
売却損がキャッシュフローを増やす仕組み
課税所得の減少による法人税等の削減
次に、売却損がなぜキャッシュフローの増加に貢献するのか、その仕組みを解説します。
[[筆者|基本的には「税金が減るのでCFがプラスになる」と覚えれば問題ないです]]
固定資産や有価証券の売却によって損失が計上されると、損益計算書上の利益が減少します。日本の税制において、法人税等はおおむね企業の利益(課税所得)をベースに計算されます。
売却損の計上によって課税所得が減少すれば、課税所得の減少に連動して納付すべき法人税等の額も少なくなります。企業が得た利益の一部は税金として社外へ流出しますが、売却損を計上して利益を圧縮できれば、流出するはずだった資金を引き留めることができます。税金支払いの減少額は、そのまま手元に残る現金(つまりCF)の増加を意味します。
節税効果による手元資金の確保
税金が安くなる効果、節税効果がキャッシュフローに与える影響は非常に大きなものです。
たとえば、本業の営業活動で十分な利益を出している企業が、遊休資産を売却して売却損を計上した状況を想定します。本業の利益から売却損が差し引かれるため、企業全体の課税所得は低く抑えられます。課税所得が減ることで税金の納付額が減少し、手元に残る現金が増加します。
[[筆者|例えば1000万で購入した営業車両を800万で売却するとき、一見200万損しているように見えますが、200万円分税金を払わなくてよくなったので、仮に税率30%なら60万円払わなくてよくなり、差引140万損したことになるわけです]]
節税効果によって確保された資金は、新たな設備投資、従業員の採用活動、借入金の返済など、企業の成長や財務基盤の強化に向けた様々な用途に活用することが可能です。資金繰りに余裕を持たせるための有効な手段として機能します。
損益計算書上はマイナスでもキャッシュフローがプラスになる理由
売却損を計上すると損益計算書上の利益はマイナス方向へ働きますが、キャッシュフローの観点からはプラスに働くことがあります。
資産を売却したことによる代金の入金があるためです。売却価格が低く、会計上は損失を計上することになったとしても、資産を手放す代わりに現金を受け取ることができます。
さらに、損失計上によって税金の支払い負担が減少する節税効果も加わります。資産売却による現金の入金と税金支払いの減少による現金の留保という2つの要素が組み合わさる結果、全体として手元に残る現金、つまりキャッシュフローは増加します。会計上の見え方と現金の動きは異なるという点を理解しておくことが重要です。
売却損に伴う節税効果の計算方法
それでは、具体的な設問設定を通して、売却損が発生した際のキャッシュフローの具体的な計算手順を確認していきましょう。
例題
以下の設定において、既存設備の売却と新設備の購入を行う時のキャッシュフローを求めよ。既存設備の売却に関連する税効果は、即時にキャッシュフローに反映されるものとする。
既存設備に関する資料
投資時点の簿価:700
投資時点の売却見込み額:600
新設備に関する資料
取得価額:1000
その他
実効税率:40%
解法
既存設備の売却に伴うキャッシュフローと、新設備の取得に伴うキャッシュフローを分けて整理し、最終的な合計額を算出します。
まず設問から時系列的に何が起こっているかを整理しましょう。

大きく分けると
①まず既存設備を購入した段階(推測)
②既存設備の売却(売却損が発生)
③新設備の購入(純水なキャッシュアウト)
このようになります。
続いて、これを一旦仕訳にして整理します。

①設備 700 |現金 700
②現金 600 |設備 700
売却損100 |
③設備 1000 |現金 1000
今回はCFを求めたいので「現金」に注目します。

※①は今回のCF算出範囲ではない
②現金 600
③ |現金 1000
つまり、
②現金 +600
③現金 △1000
となります。そして今回は売却損があるため、売却損による節税効果もCFに含めていきます。

売却損は
②売却損 100
でしたね。この損失は損益計算書上の純利益を減らすことになります。そして利益に対して税金はかかるものでした。
損失が出る=利益が減る=利益に対する税金も減る
ということで、CF的にはプラスとして計算していきます。
ではいくらプラスなのか?というと本来支払うはずだった税金分、支払わなくてよくなったのでプラスにします。今回の場合は40%です。
②売却損100 × 40%(=0.40)=40
よって40が今回売却損によって支払わなくてよくなった税金分になります。
最後に全てを足し合わせてCFを算出します。
②現金 +600
③現金 △1000
②売却損による節税効果 +40
=△360
よって、解答は△360になります。
売却損を含めたキャッシュフローの計算はややこしく、複雑になりがちですが、時系列で何が起こっているのか整理することで解までの道筋が明らかになります。
固定資産の売却損を活用した節税効果
遊休資産の売却と資金繰り
企業が事業で使用していない遊休資産を保有し続けることは、資金繰りの悪化を招く要因となり得ます。
使われていない土地や建物、稼働していない機械設備は、収益を生み出さないにもかかわらず、固定資産税の支払いや維持管理のための費用が発生し続けます。遊休資産を売却して現金化する決断は、不要な支出を削減し、同時に手元資金を増やすことにつながります。
帳簿価額よりも安い価格で売却することになり売却損が発生したとしても、売却代金を得られることに加え、維持費用の削減と節税効果によるキャッシュフローの改善が見込めます。経営状態を客観的に把握し、資産の入れ替えを検討することが重要です。
減価償却費と売却損の税務上の取り扱いの違い
固定資産にかかわる費用として、減価償却費と固定資産売却損があります。減価償却費は、資産の耐用年数にわたって規則的に費用配分されるため、毎期の節税効果は一定額に平準化されます。
一方、固定資産売却損は、売却を行った事業年度に一括して大きな損失として計上されます。当期に想定以上の利益が発生し、多額の税金負担が見込まれる場合、含み損を抱えている資産を売却して売却損を計上することで、突発的な利益を相殺し課税所得を大きく引き下げることができます。
[[筆者|税務上、固定資産売却損は原則として全額が損金として認められるため、タイミングを見計らった売却は効果的な財務戦略となりえます]]
売却代金と節税額を合わせたトータルのキャッシュイン
固定資産の売却によるキャッシュフローの改善効果を正確に把握するためには、売却代金だけでなく節税額も合算して考える必要があります。
資産の売却によって直接得られる現金収入に、売却損の計上によって本来支払うべきだった法人税等が免除された金額を加えたものが、企業にとっての真のキャッシュインとなります。
たとえ売却金額がわずかであったとしても、多額の売却損が発生し、その事業年度の利益と相殺して大きな節税効果を生み出すのであれば、トータルでの手元資金は大幅に増加します。目先の売却金額の大小にとらわれず、税務上の効果も含めた総合的な視点での判断が求められます。
[[筆者|設備を購入する段階から将来の売却損による節税効果も見据えて戦略的に取捨選択できるとよいですね。この場合、単に「高く売れるかどうか」だけで考えるのではなく、「売却損を有効に活用できるか」も考えます]]
有価証券や含み損を抱えた資産の売却判断
事業に関係のない投資有価証券の見直し
次に、企業が保有する有価証券の扱いについて確認していきましょう。
過去の付き合いで取得した取引先の株式や、利回り目的で購入した投資信託など、現在の事業活動に直接的な関わりのない投資有価証券を保有しているケースは少なくありません。購入時から時価が下落し、含み損を抱えた状態のまま塩漬けになっている有価証券は、企業の財務バランスを悪化させる要因になります。
定期的に保有資産の見直しを行い、事業との関連性が薄く、かつ含み損が発生している有価証券については、売却を通じた現金化を検討しましょう。

含み損の実現による課税所得の圧縮
有価証券の時価が下落している状態を含み損と呼びます。含み損は帳簿上の評価が下がっている状態に過ぎず、そのまま保有し続けている限りは税務上の損失(損金)として認められません。
税金の計算上、損失を反映させて課税所得を圧縮するためには、実際に有価証券を市場で売却して損失を確定させる、実現損にする手順を踏むことが求められます。
事業年度の途中で大きな特別利益が発生した年などに、意図的に含み損のある有価証券を売却し、利益と損失を相殺することで税金負担を平準化する手法は、多くの企業で採用されている財務戦略です。
[[筆者|税金は年度ごとに発生するのでタイミングが重要です。利益が小さな時に売却損を出しても節税効果が薄いのは言うまでもありませんが、資金繰りが悪化している場合はそれでも売却する判断もありえます]]
資金化のスピードと税務申告のタイミング
有価証券の売却は、不動産などの固定資産の売却と比較して、取引が成立してから現金化されるまでのスピードが速いという特徴があります。
上場株式であれば、市場を通じて速やかに売却手続きを完了させることが可能です。決算月の終盤であっても、短期間で売却を実行して損失を確定させ、当期の税務申告に反映させることができます。資金繰りの状況を見極めつつ、決算直前のタイミングで節税対策の最終調整を行うための柔軟な手段として、有価証券の売却損の活用は有効です。申告期限に間に合うよう、計画的なスケジュール管理が重要になります。
不良在庫の廃棄と売却における税務上の注意点
在庫処分の方法と税務署への説明責任
商品や製品の在庫は、企業の売上の源泉となる資産ですが、長期間売れ残った不良在庫は処分を検討することが推奨されます。
在庫の処分方法には、大きく分けて値引き販売による売却と専門業者への依頼による廃棄の2種類があります。値引き販売または廃棄のいずれの方法を選択した場合でも、帳簿価額を下回る価格での処分となれば損失が発生し、損金として計上することで節税効果を得られます。ただし、税務調査において在庫処分の事実関係を厳格に確認される可能性があります。処分を行った事実を客観的に証明するための記録を残し、税務署に対して適切な説明責任を果たす準備が必要です。
[[筆者|税務調査が関わるような処分を検討している場合は税理士など専門家を交えるのが良いでしょう]]
廃棄損と売却損のキャッシュフローへの影響の違い
在庫の廃棄処分と値引き販売では、キャッシュフローへの影響に明確な違いが生じます。
値引き販売を行って売却損を計上した場合、利益率は悪化するものの、少なからず販売代金が現金として入金されます。販売代金の入金と節税効果の両面から手元資金の増加が見込めます。
反対に、廃棄処分を選択した場合は、在庫の売却による現金収入はゼロとなります。それだけでなく、廃棄物処理業者への委託費用など、処分にかかる現金の支出が追加で発生します。廃棄損による節税効果はあるものの、現金の流出を伴うため、キャッシュフローの観点からは値引きしてでも売却する方が有利になる傾向にあります。
[[筆者|在庫商品の種類にもよりますが、廃棄処分は最終手段として考え、値引き販売が可能な顧客を探すことを優先することをおすすめします]]
期末に向けた在庫見直しと節税シミュレーション
決算期末に向けて棚卸しを行い、自社が抱えている在庫の状況を正確に把握することは極めて重要です。
長期間滞留している不良在庫をリストアップし、売却または廃棄による処分額と、処分に伴って発生する損失額、さらには税金負担の軽減効果を事前にシミュレーションしておくことが推奨されます。
当期の利益水準と照らし合わせながら、どの在庫をどのタイミングで処分するのが財務上最も効果的かを検討します。期末ギリギリになってから処分を決定しても、廃棄業者の手配が間に合わないなどの問題が生じる可能性があるため、余裕を持ったスケジュールで在庫見直しを進めることが求められます。
売却損を戦略的に活用するための財務管理
決算期末における保有資産の評価と計画的な処分
それでは、売却損を活用した財務管理の全体像について考えていきましょう。企業は毎期の決算に向けて、保有しているすべての資産の現在の価値と、将来の事業活動における必要性を評価する作業を行うことが推奨されます。
評価の結果、事業への貢献度が低く、かつ時価が帳簿価額を下回っている資産が特定された場合、計画的な処分に向けた検討を開始します。単に不要なものを捨てるという発想ではなく、保有資産を現金化して資金効率を高め、同時に節税効果によって内部留保を厚くするための戦略的な行動と位置づけることが求められます。
黒字決算時における売却損計上のメリット
売却損を活用した節税対策は、企業が十分な営業利益を確保し、黒字決算が見込まれる事業年度において最も大きな効果を発揮します。
本業が赤字で課税所得が発生していない状況で売却損を計上しても、相殺する利益がないため、赤字となった事業年度における法人税等の削減効果は得られません。税制上、青色申告法人であれば発生した欠損金を翌期以降に繰り越す制度は存在しますが、手元資金をすぐに増やすというキャッシュフロー改善の即効性は薄れます。
本業の調子が良く、多額の税金支払いが発生すると予測されるタイミングを見計らって含み損を実現させることが、経営の安定化に寄与します。
キャッシュフロー経営に向けた財務体質の強化
売却損による節税は、一時的な税金対策という側面だけでなく、中長期的な財務体質の強化につながる取り組みです。
不要な資産を売却して現金に換えることは、貸借対照表上の総資産を圧縮し、自己資本比率や総資産利益率などの財務指標を改善させる効果があります。資産の効率性を高めつつ、節税によって確保した現金を将来の成長投資に振り向けるという循環を生み出すことが、キャッシュフロー経営の根幹となります。
[[筆者|財務戦略として手元の現金を最大化することは重要です。企業体力つけるためにも、資産の売却処分を経営戦略の一部として組み込むことが大切です]]
売却損計上における税務上のリスクと対策
同族会社間取引における売却価格の妥当性
最後に、資産の売却処分を実施する際に注意すべき税務上のリスクについて解説します。特に、経営者の一族が支配する同族会社において、グループ企業間や経営者個人との間で資産の売却取引を行う場合には、厳格な注意が求められます。
売却による損失を意図的に大きくして節税額を増やす目的で、市場の適正価格よりも著しく低い価格で資産を譲渡したと税務署に認定されるリスクがあります。
著しく低い価格での売却は、税務上、差額分が寄付金や役員賞与とみなされ、意図した通りの損失計上が認められず、多額の追徴課税が発生する恐れがあると予測されます。適正な時価に基づいた取引価格の設定が不可欠です。
形式的な売却とみなされるリスクの回避
含み損を実現させるためだけに、実態を伴わない形式的な売却取引を行うことは、租税回避行為とみなされる危険性があります。
たとえば、決算期末に知人の会社に有価証券を売却して損失を計上し、翌期首にすぐに同じ価格で買い戻すといった取引は、経済的な実態がなく税金逃れのみを目的としていると判断される可能性が高いと考えられます。税務署からの指摘を避けるためには、売却の合理的な理由が存在し、所有権が完全に移転し、将来的に買い戻す約束がないなど、取引の正当性を証明できる状態にしておくことが求められます。実質的な所有権の移転を伴う真実の取引であることが求められます。
税理士等専門家との連携による適正な申告
売却損の計上によって課税所得を圧縮する行為は、税務署の関心を引きやすい事項でもあります。税務調査が行われた際に、売却価格の妥当性や処分に至った経緯について、客観的な証拠に基づいて論理的に説明できる状態にしておくことが求められます。
不動産の売却であれば不動産鑑定士による評価書、在庫の廃棄であれば廃棄証明書や作業時の写真など、客観的な証拠書類を整備し保管しておくことが重要です。
複雑な税務判断を伴う資産の処分にあたっては、自社の判断だけで進めるのではなく、税理士などの専門家と事前に十分な協議を行い、法令を遵守した適正な手続きと申告を行う体制を構築することが重要です。
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当記事の執筆者
CIT経営開発事務所 代表
井上 隆寛(いのうえ・たかひろ)
IT・事業コンサルタント
IT・開発エンジニア
行政書士R6合格者未登録
大手システム開発会社にてフルスタックSE兼Webデザイナーとして従事。2021年にコンサルタントとして独立し、企業に対するITコンサルティング・ソリューション導入支援事業を開始。2023年にはイベント企画・運営事業を新たに展開、2024年には行政書士試験に合格。現在はIT・AIコンサルティング、システム開発、エンターテイメントの3事業を柱に、企業の技術顧問や講師としてICT教育やプログラミング授業も手がける。


