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企業価値算定"DCF法"を解説。割引率や計算方法、デメリットまでわかりやすく紹介

2026.03.25

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    2026/3/25 10:30

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    企業経営において、自社の価値を客観的な数値で把握することは、M&Aや事業承継、資金調達といった戦略的な意思決定を下す上で極めて重要です。数ある企業価値評価の手法の中でも、将来の収益力に焦点を当てた「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」は、論理的で実務的な手法として広く採用されています。

    しかし、その計算プロセスは複雑であり、割引率の設定や将来予測の立て方一つで結果が大きく変動するため、苦手意識を持つ経営者や実務担当者の方も少なくありません。この記事では、DCF法の基本概念から具体的な計算ステップ、中小企業が活用する際の注意点まで、わかりやすくご紹介します。

    DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)とは何か

    まずはじめに、DCF法の本質的な考え方を確認していきましょう。

    将来の「稼ぐ力」を現在価値に引き直す考え方

    DCF法とは、企業が将来生み出すと期待されるフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を、そのリスクに応じた「割引率」を用いて現在の価値に換算し、それらを合計して企業価値を算出する手法です。

    今日受け取れる100万円と、1年後に受け取れる100万円では、その価値は異なります。今日手元にある100万円は、投資に回すことで1年後には利息を含めたより大きな金額になっている可能性があるからです。そのため、将来のキャッシュは、将来になればなるほど、現在価値に直すと目減りして評価されることになります。

    M&Aや投資判断でDCF法が重視される理由

    企業価値評価の手法は大きく分けて、純資産をベースとする「コスト・アプローチ」、類似会社と比較する「マーケット・アプローチ」、そして将来の収益をベースとする「インカム・アプローチ」の3つがあります。DCF法はインカム・アプローチの代表格です。

    M&Aなどの現場でDCF法が好まれる理由は、その企業の「固有の将来性」や「事業の特性」を最も色濃く反映できるからです。過去の蓄積である純資産だけでなく、これからどれだけのキャッシュを生み出すのかという投資家目線の評価ができるため、納得感の高い価格交渉の土台となります。

    ~Tips:インカム・アプローチ~
    評価対象会社から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を算出する方法です。DCF法のほかに、収益還元法などが含まれます。

    DCF法の計算に欠かせない3つの構成要素

    次に、DCF法を構成する中心的な要素である「フリー・キャッシュ・フロー」「割引率」「継続価値」について確認していきましょう。これらは計算の精度を左右する極めて重要な項目です。

    フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の予測と算出

    フリー・キャッシュ・フローとは、企業が事業活動を通じて稼ぎ出し、債権者(銀行など)や株主に自由に分配できる現金のことを指します。DCF法では、通常3年から5年程度の事業計画に基づき、各年度のFCFを推計します。

    FCFの計算式は一般的に以下の通りです。

    FCF税引後営業利益減価償却費設備投資額 ± 運転資本増減額

    実際に動く「現金」をベースにする点がポイントです。例えば、利益が出ていても多額の設備投資が必要な事業であれば、FCFは少なくなります。

    割引率(WACC)の決定

    将来のキャッシュを現在の価値に割り引く際に用いるのが割引率です。実務上は「WACC(加重平均資本コスト)」が用いられます。WACCは、借入にかかるコスト(負債コスト)と、株主が期待する収益率(株主資本コスト)を、それぞれの構成比で加重平均して算出します。

    WACCの計算式は一般的に以下の通りです。

    WACC = (負債コスト × (1 - 実効税率) × 負債比率) + (株主資本コスト × 株主資本比率)

    WACCが高いほど、将来のキャッシュの現在価値は低くなります。これは、その事業のリスクが高い、あるいは資金調達コストが高いと判断されていることを意味します。

    継続価値(ターミナルバリュー)の推計

    事業計画期間(例:5年)が終わった後も、企業は永続的に活動し続けることが前提となります。この計画期間以降に発生する将来価値を合算したものが「TV:継続価値(ターミナルバリュー)」です。

    継続価値は、計画最終年度の翌年以降のキャッシュ・フローが一定の比率で永久に成長し続けると仮定する「永久成長率法」などで算出されます。DCF法による算出額の半分以上がこの継続価値で占められることも珍しくないため、慎重な設定が求められます。

    永久成長率法によるTVの計算式は一般的に以下の通りです。

    継続価値(TV) = 計画最終年度の翌年の予測FCF ÷ (WACC永久成長率)

    【実践】DCF法の具体的な計算手順とステップ

    それでは、実際にDCF法を用いて企業価値を算出する際の実務的な流れを確認していきましょう。

    ステップ1:将来の事業計画(3〜5年)を策定する

    まずは事業計画の策定です。売上高、売上原価、販売費および一般管理費などを予測し、損益計算書を将来分まで作成します。ここで重要なのは、根拠のある数値目標を立てることです。過去の実績や市場の成長率を反映させ、実現可能性の高い計画に落とし込みます。

    ステップ2:各年度のFCFを算出する

    策定した事業計画をもとに、先述の計算式を用いて各年度のFCFを導き出します。特に、老朽化した設備の更新や新規事業への投資予定(設備投資額)や、売掛金・在庫の増減(運転資本)の見落としに注意が必要です。

    ステップ3:WACCを計算し、現在価値に割り引く

    負債コストと株主資本コストを計算し、WACCを算出します。

    算出されたWACCを用いて、各年度のFCFを現在価値に引き直します。

    n年後の現在価値n年後のFCF ÷ (1 + r)^n

    ※r = 割引率

    ステップ4:継続価値を算出し、企業価値・株式価値を導き出す

    事業計画期間以降の継続価値を計算し、これも現在価値に割り引きます。

    ステップ3で算出した各年度のFCFの現在価値合計と、継続価値の現在価値を合算したものが「事業価値(EV)」となります。

    さらに、事業に使われていない余剰資金や不動産などの「非営業資産」を加算し、有利子負債などの「負債」を差し引くことで、最終的な「株式価値」が算出されます。

    ~Tips:事業価値(Enterprise Value / EV)~
    企業が本来の事業活動によって生み出す価値のことです。これに現預金などの非営業資産を足し、負債を引くことで株主の持ち分である株式価値となります。

    【計算例】具体例でみるDCF法のシミュレーション

    つづいて、具体的な数値を当てはめて、DCF法による評価がどのようになされるのかを確認していきましょう。

    まず、計算に使う主要なキーワードを整理します。

    • FCF(フリー・キャッシュ・フロー)
       会社が自由に使える「手元の現金」です。今回は「1年目1000万円、2年目1100万円、3年目1200万円」とします。FCFの計算式は一般的に以下の通りでした。

      FCF税引後営業利益減価償却費設備投資額 ± 運転資本増減額

    • WACC(割引率)
      お金の「時間による価値の目減り」と「事業のリスク」を合わせた利率です。今回は「5%」とします。WACCの計算式は一般的に以下の通りでした。

      WACC = (負債コスト × (1 - 実効税率) × 負債比率) + (株主資本コスト × 株主資本比率)

    • TV(ターミナルバリュー)
      計画期間(今回は3年)が終わった後も、会社が永遠に生み出し続ける価値の合計です。

    それでは、以下の条件を持つ製造業A社の株式価値を簡易的に計算してみます。

    条件
    事業計画期間:3年間
    1年目のFCF:1,000万円
    2年目のFCF:1,100万円
    3年目のFCF:1,200万円
    割引率(WACC):5%
    永久成長率:0%
    有利子負債:5,000万円
    現預金(非営業資産):2,000万円

    ステップ1:各年度のキャッシュを現在価値に直す

    将来もらえるお金は、今もらえるお金よりも価値が低いと考えます。なぜなら、今お金があれば運用して増やせるからです。そのため、将来のFCFをWACC(5%)を使って「今ならいくらか」に目減りさせて計算します。

    • 1年目のFCF(1,000万円)の現在価値
      1,000万円 ÷ 1.05 = 約952万円
      (5%の利息がつくなら、952万円は1年後に1,000万円になるため)

    • 2年目のFCF(1,100万円)の現在価値
      1,100万円 ÷ (1.05 × 1.05) = 約998万円 (2年分、5%ずつ割り引き)

    • 3年目のFCF(1,200万円)の現在価値
      1,200万円 ÷ (1.05 × 1.05 × 1.05) = 約1,037万円 (3年分、5%ずつ割り引き)

    ここまでの合計:2,987万円 これが「目先3年間で稼ぐ現金の今の価値」です。

    ステップ2:4年目以降の価値TV(ターミナルバリュー)を出す

    会社は3年で終わるわけではありません。4年目以降もずっと1,200万円稼ぎ続けると仮定して、その価値を計算します。これがTV(ターミナルバリュー)です。永久成長率法によるTVの計算式は一般的に以下の通りでした。

    継続価値(TV) = 計画最終年度の翌年の予測FCF ÷ (WACC永久成長率)

    • ①4年目以降の価値(TV)の算出
      1,200万円 ÷ (0.05(WACC)- 0(永久成長率)) = 24,000万円
      ※分母の「0.05 - 0」は、割引率5%から成長率0%を引いたものです。年利5%の金融商品から毎年1,200万円をもらい続けるために必要な元本(2.4億円)を逆算していることと同じです。

    • ②TVを現在価値に直す
      24,000万円 ÷ (1.05 × 1.05 × 1.05) = 約20,732万円
      ※24,000万円は「3年後の時点」での評価額なので、現在価値に割り引く必要があります。

    ステップ3:合算して全体の価値を出す

    最後に、これまで出した数字を合算し、全体の価値を計算します。

    1. 事業価値(EV)を出す
      2,987万円(3年間の稼ぎ)+20,732万円(4年目以降の価値)= 23,719万円

    2. 現金を足し、借金を引く
      23,719万円 + 2,000万円 - 5,000万円 = 20,719万円
      事業以外で持っている「現預金(2,000万円)」を足し、返さなければならない「借金(5,000万円)」を引きます。

    最終的なA社の価値:2億719万円

    このように、各要素を積み上げることで客観的な金額が導き出されます。

    感度分析の重要性、前提条件が変わると価値はどう動くか

    実務では「もし割引率が1%上がったら?」「もし成長率が下方修正されたら?」といった複数のシナリオでシミュレーションを行う「感度分析」が不可欠です。DCF法は、割引率や成長率の設定が1%変わるだけで、結果が数千万円単位で変動することがあります。

    DCF法を用いるメリットとデメリット

    それでは、DCF法を実際に活用する上で知っておくべき長所と短所を確認していきましょう。

    メリット:事業の収益性や将来性をダイレクトに反映できる

    最大のメリットは、その企業の将来的なポテンシャルを数値化できる点です。特定の資産を持たないIT企業やサービス業であっても、ビジネスモデルが優れており将来的にキャッシュを稼ぐ見込みがあれば、高い評価を得ることが可能です。また、計算過程が論理的であるため、第三者に対する説明力や説得力が強いという特徴があります。

    デメリット:予測の恣意性が入りやすく、計算が複雑である

    一方で、将来予測(事業計画)がベースとなるため、予測に希望的観測が含まれると評価額が実態から大きく乖離してしまうという弱点があります。また、WACCの計算に必要なデータ収集や、専門的なファイナンス知識が必要となるため、算出のコストが高いこともデメリットです。

    中小企業の経営者が陥りやすい「過大評価」のリスク

    中小企業の場合、経営者の熱意が先行し、達成が極めて困難な高い成長率を事業計画に盛り込んでしまうケースが見受けられます。買い手側(投資家)は、その計画の「蓋然性(現実味)」を厳しくチェックします。無理な計画に基づく算出は、交渉の決裂を招く原因にもなりかねないため、保守的かつ合理的な予測を立てることが肝要です。

    DCF法の精度を高めるため視点

    つづいて、より実務に即した高度な視点から、評価の精度を向上させるためのポイントを確認していきましょう。

    割引率(WACC)設定時の「サイズ・プレミアム」の考慮

    中小企業の価値を算出する際、大企業と同じ基準で割引率を設定すると、リスクを過小評価してしまう恐れがあります。中小企業は上場企業に比べて市場での流動性が低く、経営基盤も脆弱であることが多いため、そのリスク分を「サイズ・プレミアム」として割引率に上乗せするのが一般的です。

    サイズ・プレミアムの数値は、専門的なデータ集に基づいて設定されることが一般的です。プレミアムを加味することで、より実態に近い評価が可能になります。

    非営業資産と有利子負債の調整

    事業価値から株式価値を導き出すプロセスは、意外と見落とされがちです。

    例えば、本業に関係のない遊休不動産や、過剰な現預金、ゴルフ会員権などは「非営業資産」として加算します。一方で、役員からの借入金や未払いの退職給付引当金などは「有利子負債」と同様にマイナス項目として正確に把握する必要があります。これらを洗い出すことが、最終的な譲渡価格や投資判断の精度を左右します。

    DCF法を自社の経営戦略に活かす

    ここまでDCF法の仕組みと計算方法、実務上のポイントを確認してきました。「どの事業を伸ばせば企業価値が上がるのか」「今の財務構造で資本コストをどう下げるか」といった経営改善の指針として活用することができます。

    自社の強みを正しく数値化し、自信を持ってステークホルダーと対話するためにも、まずは現在の事業計画に基づいた簡易的なシミュレーションから始めてみてはいかがでしょうか。専門家のアドバイスも活用しながら、自社の「本当の価値」を可視化していくことをお勧めします。

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    当記事の執筆者

    CIT経営開発事務所 代表
    井上 隆寛(いのうえ・たかひろ)

    IT・事業コンサルタント
    IT・開発エンジニア
    行政書士R6合格者未登録

    大手システム開発会社にてフルスタックSE兼Webデザイナーとして従事。2021年にコンサルタントとして独立し、企業に対するITコンサルティング・ソリューション導入支援事業を開始。2023年にはイベント企画・運営事業を新たに展開、2024年には行政書士試験に合格。現在はIT・AIコンサルティング、システム開発、エンターテイメントの3事業を柱に、企業の技術顧問や講師としてICT教育やプログラミング授業も手がける。