INSIGHT

AI導入は本当に必要?中小企業が見極めるべき3つのサイン

2025.09.23

    restore

    2025/10/14 09:11

    • DX・効率化

    • AI・生成AI・AIエージェント

    シェア  >

    AI導入は本当に必要?中小企業が見極めるべき3つのサイン スライド画像

    AIは中小企業の「未来への投資」である

    本レポートは、AI導入を検討すべき明確な兆候(サイン)を3つ提示し、自社の現状を客観的に判断する基準を提供します。また、多くの経営者が懸念するコストや人材の課題を乗り越えるための具体的なロードマップ、成功企業の実例、そして導入を後押しする公的支援策までを徹底的に解説します。AIはもはや単なる流行ではなく、中小企業が持続的に成長するための戦略的投資であることを理解し、未来への一歩を踏み出すための羅針盤としてご活用ください。


    CIT経営開発事務所ではAI導入サポートを行っています。
    AI活用・効率化・属人化でお困りの際はぜひご相談ください。
    AI導入支援サービス



    (1) AI導入は本当に必要?中小企業が見極めるべき3つのサイン

    この章では、AI導入を検討すべき明確な兆候を提示し、読者が自社の現状と照らし合わせ、AIが課題解決の鍵になるかを判断できるよう促します。

    1-1. サイン①:深刻な人手不足と生産性の限界

    日本の中小企業が直面する最も深刻な課題の一つに、構造的な人手不足があります。日本商工会議所の調査によると、68.0%の企業が人手不足を感じており、これは2015年以来の最大値です 。多くの社員が複数の役割を担う中小企業では、定型業務に追われ、本来の価値創造業務に集中できない状況が常態化しています。  

    AIは、この人手不足問題に対する強力な解決策となります。請求書処理、データ入力、在庫管理といった反復作業をAIが代行することで、社員の負担を大幅に軽減できます 。さらに、AIチャットボットを導入すれば、顧客からの問い合わせに24時間365日対応できるようになり、営業時間外の機会損失を防ぐことができます 。ある導入事例では、問い合わせの65%をAIが完結させ、平均応答時間を3分から5秒に短縮し、スタッフがより高度な技術サポートに集中できるようになりました 。  

    AIが定型業務を代替することで、限られた社員を、AIが代替できない「創造的で付加価値の高い業務」に再配置することができます。これは単なる業務効率化に留まらず、人的資源の最適化を図るという経営戦略的な意義を持ちます 。AIは短期的なコスト削減効果を超え、組織全体の生産性を向上させるための重要な投資となるのです。  

    1-2. サイン②:大企業や競合との競争力ギャップ

    デジタル技術に積極的に投資する大企業との間で、競争力の格差が広がりつつあります。既存のビジネスモデルでは、市場の変化に対応しきれないという危機感に直面している中小企業は、AIの導入を検討すべきサインです。

    AIは、データに基づいた意思決定を可能にし、経営の高度化を支援します 。例えば、過去の販売データ、気候、イベント情報などをAIが総合的に分析することで、売上予測の精度を60%から85%に向上させた事例も存在します 。これにより、適切な仕入れ量の判断が可能になり、在庫リスクを低減できます。  

    また、AIは品質向上と高付加価値化の実現にも貢献します。製造現場に画像認識AIを導入すれば、人間では見落としがちな不良品を高精度で検知し、不良品率を50%減少させた中小製造業の事例があります。この成果が認められ、大手企業からの受注獲得につながったケースも報告されています 。さらに、AI-OCR(光学文字認識)を導入することで、手入力に頼っていた帳票処理の業務時間を約60%削減し、業務負荷とミスを大幅に軽減することも可能です 。  

    多くの経営者は「勘と経験」で意思決定を行いますが、AIは、その「勘」をデータという客観的な根拠で補強し、より迅速かつ精度の高い経営判断を可能にします。AIは単なる「作業ツール」ではなく、経営の羅針盤になり得る存在です。

    1-3. サイン③:AIで「顔の見える関係」をさらに深化させたい

    中小企業の最大の強みは、顧客一人ひとりと築く「顔の見える関係」です。しかし、煩雑な業務に追われ、その強みを十分に活かせない現状があります。AIは、この強みをさらに深化させるための時間と機会を生み出します。

    AIを活用すれば、顧客の購買履歴や行動パターンを分析し、パーソナライズされた商品推薦やきめ細かなフォローアップが可能になります 。ある事例では、AIによる個別最適化されたサービス提供により、リピート率が平均30%向上しました 。はるやま商事では、AIで100万人の会員データを分析し、顧客ごとに最適な商品を提案するDMを送ることで、来店率をメンズで15%、レディースで12%向上させました 。  

    AIによる効率化は、人間しかできない「心のこもったサービス」に注力するための時間を生み出します 。AIが定型的な問い合わせに答え、人間がより複雑で感情的なサポートを行う、このハイブリッドモデルこそ、中小企業がAI活用で競争優位を確立する最大の鍵です。AIは、中小企業が持つ「人間力」という最大の強みを解放し、顧客との関係性をさらに強固にするための最高のパートナーとなるのです。  


    (2) 中小企業のための「スモールスタート」実践ロードマップ

    AI導入への心理的・金銭的ハードルを下げるため、具体的な手順を4つのフェーズに分けて解説し、「小さく始めて大きく育てる」という成功の法則を提示します。

    2-1. なぜ「大きく考えて小さく試す」が成功の鍵なのか

    AI導入の失敗パターンとして、目的が曖昧なまま大規模な投資を行い、結果として現場で使われずに放置される「お飾りAI」化のリスクが挙げられます 。これを回避するための最も重要な戦略が「スモールスタート」です。  

    スモールスタートの最大の利点は、失敗コストを最小化できることです 。いきなり全社的なシステムを導入するのではなく、PoC(実証実験)から始めることで、期待通りの効果が得られなかった場合でも、ダメージを抑えることができます。  

    また、小さな成功体験を積み重ねることで、AIに対する現場の抵抗感を払拭できます 。ベテラン社員の中には「AIに仕事を奪われる」という不安を抱く人もいますが、「AIで業務が楽になった」「作業時間が短縮できた」といった具体的な効果を体感することで、AIは「仕事を楽にする味方」という認識に変わっていきます。これにより、現場の協力が自然と得られるようになり、組織全体へのAI活用が加速します。スモールスタートは、KPI(時間削減、エラー率など)を小さく設定し、定期的に効果を測定することが成功の鍵となります 。  

    2-2. 導入の第一歩:自社の課題を明確にする5つのチェックリスト

    AI導入の成否は、適切な課題設定にかかっています。まずは、自社のどの業務がAIに適しているかを見極める必要があります 。以下のチェックリストは、AI導入に成功する企業が共通して満たしている業務特性です。  

    AIに適した業務のチェックリスト

    1. ✓ ルーティン業務である  

    2. ✓ 文書を読む・データを扱う作業が多い  

    3. ✓ データのデジタル化が進んでいる  

    4. ✓ 実行に必要なノウハウを保有している  

    5. ✓ 失敗時の影響が小さい  

    これらのチェックリストをもとに、自社の業務を棚卸しすることで、AI導入の最適な対象を見つけることができます。

    部門別・業務例

    • バックオフィス(総務・経理・人事): 請求書や領収書のデータ入力、経費精算、給与計算といった反復的な業務は、AI-OCRなどのツールで自動化が可能です 。  

    • 営業・マーケティング: 顧客データ分析、見込み客の絞り込み、営業メールや提案資料の作成支援は、生成AIの得意分野です 。  

    • 人事・総務: 採用活動における求人票作成や、社員研修資料の作成、社内問い合わせ対応などもAIで効率化できます 。  

    無料ツールで始めるAI活用 AI導入の心理的なハードルを下げるには、まず無料ツールから始めることが有効です。ChatGPTの無料版 やCanvaのAI機能 、リサーチに特化したPerplexity など、初期費用をかけずにAIの便利さを体験できるツールが多数存在します。これらのツールを活用して、社員がAIに触れる機会を増やすことが、導入に向けた第一歩となります。  

    2-3. 実践!段階的AI導入4つのフェーズ

    成功企業が実践している「大きく考えて小さく試す」というアプローチを、具体的な4つのフェーズで解説します 。  

    • Step.1|基礎準備フェーズ(1-2ヶ月)

      この段階の目標は、全社員がAIの基本概念と安全な使い方を理解する土台を固めることです 。無料版のChatGPTなどを使ってAIとの対話に慣れ、基本的なプロンプト作成技術を身につけます 。同時に、セキュリティガイドラインを策定し、従業員向けの基礎研修を実施します。無料版では入力した情報がモデル学習に使われる可能性があるため、機密情報を入力しないなどのルールを明確にすることが重要です 。  

    • Step.2|実践導入フェーズ(2-4ヶ月)

      有料ツールを導入し、実際の業務で小さな成功を積み重ねます 。まずは、議事録作成、メール文作成、資料作成など、効果が可視化しやすい業務から着手します 。部門別のプロンプトテンプレートを作成し、効果測定と改善のサイクルを確立することで、AI活用の成功体験を共有します 。  

    • Step.3|本格運用フェーズ(4-8ヶ月)

      特定の業務に特化した専門的なAIツール(例:AI-OCRや音声認識ツール)を追加導入し、業務プロセス全体を見直します 。この段階では、業務フロー全体の最適化を図り、生産性の劇的な向上を目指します。  

    • Step.4|発展・最適化フェーズ(8ヶ月以降)

      AIの活用をさらに深化させ、競争優位性を確立します 。カスタムAIソリューションの検討や、他システムとの連携を進めることで、他社では真似できない独自の価値創造を目指します 。AI技術を活用した新サービスの開発もこのフェーズで重要な取り組みとなります。  


    (3) 導入の二大ハードルを乗り越える処方箋

    AI導入の最大の懸念点である「コスト」と「人材」の課題に正面から向き合い、具体的な解決策を提示します。

    3-1. ハードル①:費用対効果が見えない導入コスト

    AI導入にかかる費用は、フルスクラッチ開発(数千万円以上)から、既存のSaaS型生成AIツール(月額数万円)まで幅が広いのが現状です 。初期費用には、ソフトウェアライセンス費用、ハードウェア購入費、データ準備費用などが含まれ、ランニングコストとしては、クラウド利用料、保守・サポート費、専門人材の人件費などが継続的に発生します 。  

    AI導入の費用対効果(ROI)は、一般的に次の式で計算されます :  

    ROI (%)=投資コスト得られた便益−投資コスト​×100

    AI導入の便益は、直接的な売上増加やコスト削減だけでなく、「業務改善効果」や「顧客満足度向上」など、数値化が難しい定性的な要素も含まれます 。これらの便益を「年間削減・増益額」として数値化し、長期的な視点で評価することが重要です 。例えば、削減できた作業時間を人件費に換算したり、不良率の低下による損失回避額を算出したりすることで、ROIをより正確に評価できます 。  

    3-2. ハードル②:専門人材がいない、育てられない

    IT人材の確保が困難な中小企業にとって、外部リソースの活用は不可欠な戦略です 。AI導入コンサルティング企業、フリーランスの専門家、公的なIT支援機関などを活用することで、社内に専門人材がいなくても、適切なAI導入と運用を進めることができます 。  

    また、ノーコード・ローコードのAIツールが増加していることも、この課題を解決する大きな鍵となります 。専門知識がなくても直感的に操作できるツールを選ぶことで、現場の社員が自らAIを使いこなし、業務改善を主導できるようになります。これは、特定の専門家だけにAI活用を任せるのではなく、組織全体でAIを使いこなす文化を醸成する上で非常に重要です。  

    プロンプトは未来のスキル AIを使いこなす上で最も重要なのは、複雑なプログラミングスキルではなく、AIへの「指示(プロンプト)」を正確に書く能力です 。プロンプトエンジニアリングは、誰でも習得可能なスキルであり、社内研修を通じて全社員の「未来のスキル」として育成すべきです 。経済産業省のDX推進ガイドラインにもあるように、まずはAIへの理解を深めることがDXの第一歩となります 。  


    (4) AI活用で変革した中小企業・部門の成功事例集

    具体的な成功事例を提示することで、AI導入後のイメージを鮮明にし、読者の行動を促します。

    4-1. 業務効率化・生産性向上事例

    • 製造業:株式会社ヨシズミプレス(検査時間40%削減)

      従業員約20名の部品メーカーである株式会社ヨシズミプレスは、AI-OCRと画像認識AIを導入し、目視検査を自動化しました 。AI導入前は、6名の検査員が1ヶ月あたり50万個の製品を10日間かけて検査していましたが、AI導入後は、AIが一次検査を行うことで、不良品と判定された約2万個の製品のみを人間が再検査すればよくなりました。これにより、総検査時間を月あたり40%削減し、生産性を大幅に向上させました 。  

    • バックオフィス:帳票処理の自動化

      神戸製鉄所(製造業)では、AI-OCRを導入し、従来人手で行っていた帳票処理の業務時間を約60%削減することに成功しました 。また、従業員約20名のIT企業であるanbx株式会社では、専任の法務担当者がいない状況で、法務分野に特化した生成AIを導入。契約書のレビューや修正案の提示を支援させることで、確認作業の負担を大幅に軽減しました 。これは、人手を増やさずに対応力を高められる、少人数体制の企業にとって参考となる事例です。  

    4-2. 顧客満足度・売上向上事例

    • 小売業:はるやま商事(顧客分析で来店率向上)

      紳士服チェーン大手のはるやま商事は、全会員に同じ内容のDMを送付していましたが、顧客ニーズの多様化に対応するため、感性の学習に特化したAIを導入しました 。このAIは、100万人の会員の購買履歴や商品画像を分析し、顧客ごとに最適な商品を提案するDMを生成。結果として、来店率はメンズで15%、レディースで12%向上し、店頭売上の増加につながりました 。  

    • サービス業:AIチャットボットによる24時間顧客対応

      星野リゾートでは、宿泊予約センターの問い合わせにAIチャットボットを活用し、問い合わせ対応を効率化しました 。これにより、新人の早期戦力化も可能となり、顧客対応の質を維持しながら、業務の属人化解消にも貢献しました。  

    4-3. 採用・人事領域の事例

    • AI適性診断によるミスマッチ防止

      AI適性診断ツールは、候補者の能力とポテンシャルを客観的に分析し、最適な人材配置を実現します 。これにより、採用のミスマッチを防ぎ、人事担当者の負担軽減にもつながります 。  

    • 求人票や研修資料の自動生成

      生成AIを活用することで、魅力的な求人票の作成や面接質問の準備、業務マニュアルや新人研修プログラムの作成まで、採用・人材育成活動のあらゆる場面を効率化できます 。  

    業種・部門別AI導入成功事例サマリー

    導入企業・部門

    業種

    導入目的

    導入ツール/AIタイプ

    導入効果

    出典

    株式会社ヨシズミプレス

    製造業

    業務効率化・品質向上

    画像認識AI

    検査時間40%削減、不良品率改善

    神戸製鉄所

    製造業

    業務効率化

    AI-OCR

    帳票処理業務時間を60%削減

    anbx株式会社

    IT企業

    業務効率化

    法務分野特化型AI

    契約書レビューの負担を大幅軽減

    はるやま商事株式会社

    小売業

    売上向上・顧客満足度

    感性学習AI

    来店率15%向上

    星野リゾート

    サービス業

    顧客満足度向上

    AIチャットボット

    新人の早期戦力化、属人化解消

    ビズリーチ

    人材サービス

    売上向上・サービス改善

    生成AI

    職務経歴書作成支援でスカウト受信数40%アップ

     


    (5) AI導入を後押しする!中小企業が活用すべき公的支援制度

    AI導入の最大のハードルであるコストを、国や自治体の支援制度で乗り越える方法を具体的に解説します。

    5-1. 2025年版:最新の補助金・助成金ガイド

    AI導入には、国や地方自治体が提供する様々な補助金・助成金が活用できます。これにより、初期投資の経済的負担を大幅に軽減することが可能です 。  

    • IT導入補助金:

      中小企業・小規模事業者が、労働生産性向上を目的としたITツール(ソフトウェア、サービス等)を導入する際に利用できる補助金です 。AIツールもこのITツールに含まれます。ソフトウェア購入費やクラウド利用料だけでなく、マニュアル作成や研修費用も対象となります 。  

    • ものづくり補助金:

      正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」で、革新的な製品・サービス開発や生産プロセスの改善のための設備投資・システム構築を支援します 。AIを搭載した生産設備や、AIを活用したシステム開発などが対象となります 。  

    • その他の補助金:

      事業再構築補助金: 新規事業への進出や事業再編などを支援する補助金で、DX推進のための設備投資なども対象となる可能性があります 。  

      小規模事業者持続化補助金: 小規模事業者が販路開拓や業務効率化に取り組む際の経費を支援するもので、ウェブサイト関連費や委託・外注費などにAIツール導入が含まれる可能性があります 。  

    5-2. 申請時の注意点と専門家の活用

    補助金を活用する際は、いくつかの注意点があります 。まず、各補助金で対象となる事業者や経費、補助率が異なるため、自社が対象となるかを事前に確認することが不可欠です 。申請期間や提出書類も複雑な場合が多いため、余裕を持って準備を進める必要があります 。  

    特に、審査においては事業計画の実現可能性や効果の検証が重視されます 。補助金申請は単なる資金調達ではなく、自社の課題を深く分析し、AI導入によってどのような成果を上げるかを言語化する絶好の機会となります。このプロセス自体が、AI導入を成功に導く重要なステップであると言えます 。専門家によるサポートを活用することで、複雑な申請要件や事業計画の策定をスムーズに進めることができ、採択率を高めることにもつながります 。  

    2025年度版:中小企業向け主要AI関連補助金一覧

    補助金名

    対象事業者

    補助上限額

    補助率

    対象経費

    AI導入との関連性

    IT導入補助金

    中小企業・小規模事業者

    450万円

    1/2〜4/5

    ソフトウェア、クラウド利用料、関連費用、ハードウェア購入費など

    AIツールも対象。特に小規模なDX導入に最適。

    ものづくり補助金

    中小企業・小規模事業者

    4,000万円

    1/2〜2/3

    機械装置・システム構築費、クラウドサービス利用費、専門家経費など

    革新的サービス開発や生産プロセス改善のためのAI設備投資を支援。

    事業再構築補助金

    中小企業・中堅企業

    5億円

    1/2〜2/3

    建物費、機械装置・システム構築費、研修費、外注費など

    新規事業や事業再編におけるAI・DX推進を支援。

    小規模事業者持続化補助金

    小規模事業者

    50万円(+特例)

    2/3

    機械装置等費、ウェブサイト関連費、外注費など

    業務効率化や販路拡大のためのAIツール導入も対象となる可能性がある。


    (6) 従業員と組織を巻き込む「AI人材育成」の始め方

    ツールを導入するだけでなく、それを使いこなせる「人」を育てることが、AI活用の成否を分けます。

    6-1. 従業員の不安を解消するコミュニケーション戦略

    AI導入にあたり、特にベテラン社員からは「仕事を奪われる」という抵抗感が生まれることがあります 。この不安を払拭するためには、「AIは敵ではなく、仕事を楽にする味方である」というメッセージを繰り返し伝え、現場の理解と信頼を築くことが不可欠です 。  

    小さな成功体験を積み重ね、その効果を全社で共有することで、AI活用のメリットを具体的に示し、現場の協力を促すことができます 。また、経営者だけでなく、各部署から「AI推進担当者」を選出し、社内コミュニティを形成することも有効です 。これにより、現場主導でのAI活用とノウハウ共有が促進され、組織全体へのAI浸透が加速します。  

    6-2. 現場のAIリテラシーを高める具体的な研修プログラム

    AIを組織に定着させるためには、全社員のAIリテラシー向上を目指す研修プログラムの実施が不可欠です。

    • プロンプト作成技術の習得:

      AIを使いこなす上で最も重要なスキルは、AIへの指示を正確に書く「プロンプトエンジニアリング」です 。プロンプト作成のワークショップや研修を実施することで、業務効率化に直結する実践的なスキルを習得させることができます 。  

    • 基礎知識から業務活用までを学ぶ講座例:

      有料講座: ネットラーニングやAidemyなど、体系的にAIの基礎から応用までを学べるオンライン講座が多数提供されています 。これらの講座は、DX推進や業務効率化を目指す企業の人材育成に最適です 。  

      無料講座: JDLA(日本ディープラーニング協会)の「AI For Everyone」やJMOOCの「AI活用人材育成講座」など、手軽にAIの基礎を学べる無料講座も存在します 。これらは、まずはAIに触れてみたいという社員の学習意欲を高める上で有効です。  

    経済産業省が提唱する「DX推進ガイドライン」やIPA(情報処理推進機構)が定義した「デジタルスキル標準」に準拠した研修プログラムを活用することで、信頼性が高く、体系的な学習を促すことができます 。  


    (7) AI活用の「落とし穴」とリスク管理の原則

    AI導入のメリットを享受するためには、その潜在的なリスクを理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。

    7-1. 知っておくべき3つのリスク:セキュリティ、著作権、誤情報

    • 情報漏洩・セキュリティリスク:

      無料版のChatGPTなど、クラウド型のAIサービスでは、入力した情報がAIモデルの学習に利用され、機密情報が外部に流出するリスクがあります 。実際に、社内機密のソースコードをAIに入力し、情報が流出した事例も報告されています 。  

      対策: 企業向けにデータの学習利用が制限された有料プラン(例:ChatGPT Plus, Team, Enterprise)や、APIを利用することが推奨されます 。また、社内ルールとして「顧客情報や社内機密情報は絶対に入力しない」という方針を明確に定めることが最も重要です 。  

    • ハルシネーション(誤情報生成)リスク:

      AIは常に正しい情報を出力するとは限りません。学習データが古かったり、偏っていたりすることで、誤った情報や存在しない事実をあたかも真実のように生成する「ハルシネーション」が発生するリスクがあります 。  

      対策: AIの出力内容を鵜呑みにせず、必ず人間がファクトチェックを行うルールを徹底する必要があります 。  

    • 著作権・コンプライアンス違反リスク:

      AIが生成したコンテンツが、既存の著作物に類似し、意図せず著作権侵害を引き起こす可能性があります 。特に、学習ソースが少ないニッチな分野や、著名なアーティストのスタイルを模倣した画像生成などでは、このリスクが高まります 。  

      対策: AIが生成したコンテンツは、必ず人間が独自性を確認するプロセスを組み込むべきです。必要に応じて、法務専門家によるチェック体制を構築することも重要です 。  

    7-2. AI導入チェックリスト:失敗しないための最終確認

    AI導入を成功させるためには、ツール選定や費用対効果だけでなく、組織としての準備が整っているかを確認することが不可欠です 。以下のチェックリストは、導入前にすべての項目がYESになるかを確認することで、成功確率を格段に高めるものです。  

    • ✓ 優先的に取り組む業務を決めているか?  

    • ✓ 担当者と現場リーダーをアサインしているか?  

    • ✓ 社内の利用ルールとセキュリティ方針を明文化しているか?  

    • ✓ 効果測定のKPIと評価タイミングを決めているか?  

    これらの項目をすべて満たすことで、AI導入は単なるツールの導入ではなく、組織全体の変革へとつながるでしょう。


    (8) AIは、中小企業の「人」と「強み」を解放する最大の武器になる

    AIは、もはや遠い未来の技術ではありません。深刻な人手不足、激化する競争、そして顧客との関係性深化という課題に直面する中小企業にとって、AIは持続的な成長を可能にするための戦略的投資です。AIは「仕事を奪う」のではなく、社員を請求書処理やデータ入力といった雑務から解放し、本来の創造的な仕事に集中させる「最高のパートナー」となるのです。

    AI導入の壁となる「コスト」や「人材」の課題は、本レポートで示した「スモールスタート」戦略、つまり小さく始めて徐々に拡大するアプローチによって乗り越えることができます。また、IT導入補助金やものづくり補助金などの公的支援制度は、その一歩を踏み出すための強力な後押しとなります。

    そして何より重要なのは、AIを使いこなせる「人」を育てることです。プログラミングの知識は不要です。AIへの的確な「指示(プロンプト)」を書く能力を全社員が習得すれば、AIは現場レベルで瞬く間に業務効率化のエンジンとなります。AIは、中小企業が持つ「人間力」という強みをさらに磨き、未来を切り開くための最大の武器となるのです。今こそ、AIを活用して、競争優位性を確立する最初の一歩を踏み出してください。

    当記事の執筆者

    CIT経営開発事務所 代表
    井上 隆寛(いのうえ・たかひろ)

    IT・事業コンサルタント
    IT・開発エンジニア
    行政書士R6合格者未登録

    大手システム開発会社にてフルスタックSE兼Webデザイナーとして従事。2021年にコンサルタントとして独立し、企業に対するITコンサルティング・ソリューション導入支援事業を開始。2023年にはイベント企画・運営事業を新たに展開、2024年には行政書士試験に合格。現在はIT・AIコンサルティング、システム開発、エンターテイメントの3事業を柱に、企業の技術顧問や講師としてICT教育やプログラミング授業も手がける。