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科学技術研究統計とは、調査結果から、研究会、回答の義務についてわかりやすく解説~総務省の統計でみる~
2026.01.28
2026/1/28 10:54
戦略・フレームワーク
統計
データ分析
統計資料

日本の科学技術の進展や経済の活力を測る上で欠かせないのが、総務省が実施する科学技術研究統計調査です。企業や大学、研究機関などの担当者にとって、この調査票が手元に届いた際、何から手を付ければよいのか、なぜ回答しなければならないのか、戸惑うことも少なくありません。今回は、最新の調査結果から回答の義務、具体的な記入方法まで、不安が払拭されるよう網羅的に解説していきます。
- 科学技術研究統計の基礎と全体像
- 調査の目的と背景、日本の科学技術力を測る指標
- 調査の対象、選ばれる組織と選ばれない組織の違いは何か
- 調査のサイクルと項目、いつ何を答えるのか
- 2025年科学技術研究統計の結果からみる最新動向
- 研究費総額の推移、投資の勢い
- 産業別の特徴、製造業の圧倒的存在感
- 研究人材の現状、女性研究者の比率
- 科学技術研究統計を意思決定に用いる4つの方法
- 1. 経営資源配分の最適化(リソース・アロケーション)
- 2. 市場の成長性と投資集中度の把握(トレンド・デコード)
- 3. 研究開発体制の健全性評価(人材と予算のバランス)
- 4. 戦略的ポジショニングの再定義(リスク・ミティゲーション)
- 科学技術研究統計の回答義務と法的根拠
- 統計法第13条に基づく「報告義務」
- 罰則規定の存在と行政のスタンス
- 徹底された秘匿性、守秘義務について
- 調査票の作成・回答
- 社内調整の進め方:情報のありかを特定する
- よくある質問(FAQ)
- Q. 研究開発を一切行っていない場合はどうすればいい?
- Q. 提出期限を過ぎてしまったら?
- 科学技術研究統計は日本の未来を創るための共同作業
- 統計についてコチラもおすすめです【関連記事】
科学技術研究統計の基礎と全体像
まずはじめに、科学技術研究統計の定義や、なぜ国がこの調査を毎年実施しているのか、その基本的な目的と背景を確認していきましょう。
科学技術研究統計は、統計法に基づく「基幹統計」の一つとして位置付けられています。これは、日本の科学技術に関する活動の実態を明らかにするために、総務省が毎年実施している非常に重要な調査です。
調査の目的と背景、日本の科学技術力を測る指標
科学技術研究統計の最大の目的は、わが国における研究開発活動の実態を把握することにあります。具体的には、研究費の総額、研究に従事する人数、技術貿易の状況などを数値化し、科学技術振興のための政策立案や、国際比較のための基礎資料として活用されます。
例えば、文部科学省の科学技術指標や、OECD(経済協力開発機構)などの国際機関に提供されるデータも、この調査の結果が基になっています。日本の研究開発投資が世界の中でどのような位置にあるかを客観的に示す公式データと言えます。
~Tips:基幹統計~
国の統計体系において特に重要と認められた統計のことです。統計法により、正確性を期すための強い権限と、回答者に対する報告義務が課されています。
調査の対象、選ばれる組織と選ばれない組織の違いは何か
調査の対象は、大きく分けて「企業」「非営利団体・公的機関」「大学等」の3つのカテゴリーに分類されます。
企業の場合、資本金1,000万円以上の全企業が対象になるわけではなく、特定の産業に属する企業の中から、標本理論に基づいて抽出されます。ただし、資本金が非常に大きい企業や、過去に大規模な研究開発費を計上した実績のある企業などは、毎年継続して調査対象になる傾向があります。
自分が勤務する会社に突然調査票が届いた場合、それはその業界の代表する存在として選ばれたことを意味します。こう考えると調査を少し受け入れやすくなるのではないでしょうか。
調査のサイクルと項目、いつ何を答えるのか
調査は毎年実施されており、調査日は3月31日、調査の対象期間は、その日の前1年間の決算期(または会計年度)となります。
出典:総務省統計局 - 科学技術研究調査 調査の概要
4 調査の時期
資本金は6月1日現在、従業者数は3月31日現在、また売上高、研究費などの財務事項は3月31日又はその直近の決算日から遡る1年間の実績である。
主な調査項目は以下の通りです。
研究費…社内で支出した費用や外部に委託した費用
研究者、研究補助者、技能者、事務関係者の人数
技術の輸出、導入にかかる対価…技術貿易
これらは、企業の財務諸表や人事記録から抽出して集計する必要があります。
2025年科学技術研究統計の結果からみる最新動向
次に、直近で公表された調査結果に基づき、日本全体の研究開発活動が現在どのような状況にあるのか、その具体的な数値と傾向を確認していきましょう。
最新の調査結果(2025年公表分、令和6年調査)によると、日本の研究開発活動にはいくつかの顕著な特徴が見て取れます。各項目について後ほど触れますが、まずはデータをご覧ください。
図表.1 2025年 2025-12-12 産業、製品・サービス分野別社内使用研究費(資本金1億円以上の企業、大学等出資会社)
※e-StatよりダウンロードしたデータをGoogleスプレッドシート上で展開し作成。
図表.2 グラフ - 2025年 2025-12-12 産業、製品・サービス分野別社内使用研究費(資本金1億円以上の企業、大学等出資会社)
※視覚的にわかりやすいよう「製造業」は除外しています。
※e-Statよりダウンロードしたデータより、CIT経営開発にて作成。
研究費総額の推移、投資の勢い
2023年度(令和5年度)の日本の研究費総額は、過去最高水準を維持、あるいは微増傾向にあります。特に企業部門における投資が全体の約7割から8割を占めており、民間企業の意欲が日本の科学技術力を支えている実態が浮き彫りになっています。
特にDXやグリーントランスフォーメーション(GX)に関連する分野での投資が活発化しており、ソフトウェアや新素材、エネルギー関連の研究開発が全体の数字を押し上げています。
産業別の特徴、製造業の圧倒的存在感
産業別に見ると、依然として「輸送用機械器具製造業(自動車など)」や「医薬品製造業」の研究費が突出しています。これらの業界はグローバル競争が激しいため、次世代技術への投資を緩めることができない状況が統計からも読み取れます。
一方で、情報通信業においても研究開発費の増加が見られ、AI(人工知能)やクラウド技術の基盤研究に多額の資金が投入されていることが推測されます。
研究人材の現状、女性研究者の比率
研究者数についても、総数は緩やかな増加傾向にあります。注目すべきは、女性研究者の割合です。長年、諸外国に比べて低い水準にあることが指摘されてきましたが、直近のデータでは、企業や大学での登用が進み、比率は少しずつ上昇しています。
しかし、依然として欧米諸国との差は存在しており、研究環境の整備やワークライフバランスの推進といった課題が、統計データを通じて再確認される形となっています。
科学技術研究統計を意思決定に用いる4つの方法
ではこれらのデータや公表された統計結果はどのように活用できるのでしょうか。経営戦略や意思決定の判断材料として具体的な4つのアプローチをご紹介します。
1. 経営資源配分の最適化(リソース・アロケーション)
自社の研究開発費が、売上高に対してどの程度の割合を占めているかを算出・把握することは、最も基本的な活用法です。これを統計調査から得られる同業他社の平均値と比較することで、自社の投資水準が「過剰」か「過小」かを客観的に判断できます。
例えば、業界全体の投資比率が上昇している中で自社の投資が横ばいであれば、数年後に技術的な優位性を失うリスクがあるという仮説が立てられます。逆に、平均を大きく上回る投資を行っている場合は、その投資が将来の利益に結びつく確度が高いか、あるいは効率性を改善すべきかといった社内議論の根拠として機能します。
2. 市場の成長性と投資集中度の把握(トレンド・デコード)
科学技術研究統計の結果を時系列で追うことで、どの産業セクターに日本の資本が集中し始めているかを読み取ることができます。研究開発への投資は、製品やサービスが市場に登場する数年前に行われる先行指標としての側面を持っています。
特定の業種で研究費が急増している事象を確認できれば、それは新たな市場機会が生まれつつあるサイン、あるいは競争が激化する予兆として捉えることができます。これにより、自社の新規事業立案や、既存事業の撤退・維持といったポートフォリオ戦略の判断精度を高めることが可能になります。
3. 研究開発体制の健全性評価(人材と予算のバランス)
「研究者一人あたりの研究費」という指標を用いることで、自社の研究開発体制が十分に機能しているかを評価できます。統計データから算出される業界平均と比較して、自社の一人あたり予算が極端に少ない場合、研究者が本来のパフォーマンスを発揮できていない、あるいは設備投資が不足しているといった課題が浮き彫りになります。
人材(人件費)と活動費(原材料費や設備費)のバランスを業界水準と照らし合わせることで、採用を強化すべきか、あるいは一人ひとりの研究環境を整えるべきかといった、組織運営における具体的な示唆を得ることができます。
4. 戦略的ポジショニングの再定義(リスク・ミティゲーション)
統計データは、他社がどのような「研究の質」に注力しているかを推測する材料にもなります。例えば、基礎研究、応用研究、開発研究の比率を確認することで、業界全体が既存製品の改良(開発研究)に寄っているのか、それとも基礎研究に投資しているのかが見えてきます。
もし業界全体が短期的な成果(開発研究)に偏っているならば、自社があえて基礎・応用研究に一定の資源を割くことで、中長期的な独占的地位を築くという差別化戦略が検討できます。統計を鏡として自社の戦略を照らし合わせることで、盲目的な追随を避け、独自のポジショニングを確立するための意思決定が可能になります。
科学技術研究統計の回答義務と法的根拠
次に、調査票への回答が法律でどのように定められているのか、また未回答や誤回答があった場合の法的な取り扱いについてご紹介します。
「忙しい中で、この膨大な調査に回答する義務が本当にあるのか」といった疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。
統計法第13条に基づく「報告義務」
結論から申し上げますと、科学技術研究統計の対象に選ばれた場合、回答の義務があります。これは統計法第13条において「基幹統計調査の報告義務」として明文化されています。
行政が行う一般的な「アンケート」は任意協力であることが多いですが、基幹統計であるこの調査は、国家の運営に不可欠な正確なデータを得るために、法律によって回答が義務付けられているのです。もし仮に「忙しいから」「答えたくないから」という理由で回答を拒否できてしまうと、日本の政策判断を誤らせるリスクが生じてしまいます。政策判断を誤ると、例えば必要な産業に支援金が行き渡らなくなったり、世間と乖離した政策が実行されるなど、まわりまわって自社に悪影響を及ぼす可能性も秘めています。
罰則規定の存在と行政のスタンス
統計法第61条では、報告を拒んだり、虚偽の報告をしたりした場合には、50万円以下の罰金に処せられる可能性があることが規定されています。
しかし、実際にすぐさま罰則が適用されるケースは極めて稀と考えられます。統計局が求めているのは罰金ではなく、正確なデータだからです。提出が遅れている場合などは、一般的に、督促の電話や手紙が届くと考えられます。あくまで正確な集計を行うための協力依頼という側面が強いです。ですが、義務であることは変わりませんので、可能な限り速やかに回答することが、コンプライアンスを考えても望ましいでしょう。
徹底された秘匿性、守秘義務について
一方で、提供したデータが他目的に利用される心配はありません。統計法第41条により、統計調査に従事する者には厳格な守秘義務が課されています。
提出された調査票の内容が、税務署の調査に使われたり、他社に漏洩したりすることは絶対にありません。データは集計後に個人や特定の企業が識別できない形(統計表の形式)で公開されるため、安心して事実を報告することができます。
調査票の作成・回答
実際に調査票を記入する際に、社内のどの部署と連携し、どのような点に注意して集計を進めればよいのか、実務的なフローを考えていきましょう。
初めて担当になった方は、その項目の多さに圧倒されるかもしれませんが、要点を押さえれば効率的に作成できます。
社内調整の進め方:情報のありかを特定する
科学技術研究統計の項目は、大きく「お金(研究費)」と「人(研究者数)」に分かれます。そのため、一人の担当者がすべてを把握していることは稀です。
経理・財務部門:昨年度の研究開発費の総額、社内支出分、社外への委託分、および人件費のデータ。
人事・労務部門:3月31日現在の役職員数、そのうち研究に専念している人数、兼務している人数。
研究開発・技術部門:具体的な研究内容が「基礎研究」「応用研究」「開発研究」のどこに該当するか、技術の輸出入があるか。
このように、あらかじめ各部門に「この項目のデータが必要」と依頼を出しておくことが、スムーズな回答のコツです。
よくある質問(FAQ)
このセクションでは、調査の現場でよく発生する疑問点とその解決策を学ぶことができます。
Q. 研究開発を一切行っていない場合はどうすればいい?
A. その場合でも回答は必要です。調査票の、研究開発を行っていない、などの項目にチェックをして提出することになります。日本にどれくらいの割合で研究開発を行わない企業があるのかという正確な比率も算出されますので必要、ということになります。
Q. 提出期限を過ぎてしまったら?
A. 期限を過ぎても、一般的には集計作業が完了するまでは受け付けてもらえることがあるようです。まずは調査票に記載されている問い合わせ先に連絡し、提出の意思を伝えてください。
科学技術研究統計は日本の未来を創るための共同作業
科学技術研究統計は、日本の技術力の現在を明らかにする極めて重要な統計です。統計をもとに将来に向けた適切な予算配分や政策決定が行われるようになります。
正確なデータを報告することは、自社の立ち位置を知り、ひいては日本の科学技術の発展に寄与することにもつながります。また、回答するだけではなく調査の結果が公表されたら、e-Statよりダウンロードし、ぜひ実務でも活用してみてください。
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当記事の執筆者
CIT経営開発事務所 代表
井上 隆寛(いのうえ・たかひろ)
IT・事業コンサルタント
IT・開発エンジニア
行政書士R6合格者未登録
大手システム開発会社にてフルスタックSE兼Webデザイナーとして従事。2021年にコンサルタントとして独立し、企業に対するITコンサルティング・ソリューション導入支援事業を開始。2023年にはイベント企画・運営事業を新たに展開、2024年には行政書士試験に合格。現在はIT・AIコンサルティング、システム開発、エンターテイメントの3事業を柱に、企業の技術顧問や講師としてICT教育やプログラミング授業も手がける。


