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液浸冷却の真実は?メリット・デメリットから導入前に知るべき全知識【2026年版】
2025.11.20

データセンターの消費電力削減や、生成AIの普及に伴うサーバー発熱量の増大により、「液浸冷却(Immersion Cooling)」がかつてないほど注目を集めています。しかし、従来の空冷とは全く異なるアプローチであるため、その実態や具体的なリスクが見えにくいのが現状です。
本記事では、液浸冷却の基礎知識から、導入検討時に必ず押さえておくべきデメリット、冷媒の種類、そしてデスクトップPCレベルでの活用の可能性まで、専門的な知見を交えて解説します。
特に、液浸冷却の導入を検討されている事業者様、テクノロジーに関心のある方におすすめの内容となっております。ぜひ最後までご覧ください。
- 液浸冷却(Immersion Cooling)とは?空冷・水冷との違いと基本メカニズム
- なぜ今、液浸冷却なのか?AI・HPC時代の熱問題と解決策
- 1相式と2相式の違いと、それぞれの冷却効率
- 導入前に直視すべき「液浸冷却のデメリット」と課題
- メンテナンスの難易度と「液体まみれ」の現場実態
- 設備重量と初期コスト、消防法など法的規制の壁
- 部材の適合性リスク
- 液浸冷却で使用される「液体(冷媒)」の種類と選び方
- フッ素系、オイル系、合成油の特性比較表
- 環境規制(PFAS問題など)が冷媒選びに与える影響
- デスクトップPC・自作PCへの液浸冷却導入は現実的か?
- 個人ユーザーが直面するハードル(水槽、密閉、保証切れ)
- それでも挑戦したい!必要な機材と覚悟
- 主要な液浸冷却メーカーとソリューションの動向
- 国内・海外の主要タンクメーカーと冷媒メーカーの役割分担
- 自社に最適なパートナーを選ぶためのチェックリスト
- まとめ:液浸冷却は自社の課題解決になるか?
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液浸冷却(Immersion Cooling)とは?空冷・水冷との違いと基本メカニズム
このセクションでは、液浸冷却の基本的な仕組みと、なぜこれほど注目されているのかという背景を解説します。
なぜ今、液浸冷却なのか?AI・HPC時代の熱問題と解決策
従来のデータセンターや高性能PCでは、ファンで風を送る「空冷」が一般的でした。しかし、近年のGPUやCPUは処理能力の向上と共に発熱密度が劇的に上昇しており、空気による熱交換だけでは冷却が追いつかない事例が増えています。
液浸冷却は、IT機器を非導電性(電気を通さない)の液体に直接浸すことで冷却します。液体は空気よりも熱伝導率が圧倒的に高いため、効率的に熱を奪うことが可能です。これにより、冷却ファンの電力を削減し、PUE(電力使用効率)を劇的に改善できる可能性があります。
1相式と2相式の違いと、それぞれの冷却効率
液浸冷却には大きく分けて2つの方式があります。
単相式(1相式):
液体が液体のまま循環して熱を移動させる方式です。構造が比較的シンプルで、オイル(鉱物油や合成油)などが使われます。メンテナンス性とコストのバランスが良いのが特徴です。
二相式(2相式):
液体が沸騰して気体になる際の「気化熱」を利用して冷却する方式です。非常に高い冷却能力を持ちますが、密閉性の高いタンクが必要で、冷媒の価格も高価になる傾向があります。
Tips:PUE(Power Usage Effectiveness)
データセンターの電力効率を示す指標。「データセンター全体の消費電力 ÷ IT機器の消費電力」で算出され、1.0に近いほど効率が良いとされます。従来の空冷データセンターでは1.5〜2.0程度が一般的ですが、液浸冷却はファン動力を削減できるため、PUE 1.0x台(限りなく1.0に近い数値)を目指せる技術として期待されています。
導入前に直視すべき「液浸冷却のデメリット」と課題
では液浸冷却にデメリットはないのでしょうか。ここでは、メリットの裏にある「現場での運用課題」や「デメリット」について、具体的に確認してみます。
メンテナンスの難易度と「液体まみれ」の現場実態
液浸冷却の最大の懸念点は、日常の運用保守です。サーバーやPCパーツが液体に浸かっているため、部品交換やメモリ増設の際には、機器を液体から引き上げ、洗浄・乾燥させる必要があります。
従来の空冷ラックであれば数分で終わる作業が、液浸冷却では「液切り」や「拭き取り」の工程を含め、数倍の時間を要することがあります。また、床に液体が垂れるリスクもあり、作業環境の維持には専用のオペレーションが必要です。
設備重量と初期コスト、消防法など法的規制の壁
液体は空気よりもはるかに重いため、タンクを満たした際の床耐荷重(積載荷重)が問題になるケースがあります。既存のビルやデータセンターに導入する場合、床の補強工事が必要になる可能性があります。
また、使用する冷媒の種類によっては、消防法上の「危険物」に該当する場合があり、指定数量以上の貯蔵には特別な許可や設備要件(防油堤の設置など)が求められます。これは導入ハードルを大きく上げる要因の一つです。
部材の適合性リスク
すべてのIT機器が液浸冷却に対応しているわけではありません。液体に浸すことで予期せぬトラブルが発生することがあります。
ケーブルの被膜: 特定の冷媒に長時間浸すと、可塑剤が溶け出し、硬化したり溶解したりする素材があります。
ラベルや接着剤: 剥がれてポンプを詰まらせる原因になります。
コンデンサやHDD: ハードディスクドライブ(HDD)は通気口があるため液浸できません(ヘリウム充填モデルやSSDへの換装が必須です)。
液浸冷却で使用される「液体(冷媒)」の種類と選び方
ここでは、液浸冷却の要となる「冷媒(クーラント)」の種類と特性についてご紹介します。
フッ素系、オイル系、合成油の特性比較表
冷媒選びは、コスト、冷却性能、メンテナンス性に直結します。
冷媒の種類 | 主な特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
フッ素系不活性液体 | 2相式でよく使われる。水のようなサラサラした性状。 | 絶縁性が高く、不燃性。気化熱利用で冷却効率が極めて高い。 | 非常に高価。蒸発によるロス対策が必要。PFAS規制の影響を受ける可能性がある。 |
合成油(PAOなど) | 化学的に合成されたオイル。 | 酸化安定性が高く、長寿命。鉱物油より臭いが少ない。 | 鉱物油より高価。粘度があるため、洗浄に手間がかかる。 |
鉱物油(ミネラルオイル) | いわゆるベビーオイルに近い成分。 | 安価で入手しやすい。 | 不純物を含む場合がある。粘度が高く、機器の洗浄が大変。可燃性の場合がある。 |
液浸冷却の最新の主要冷媒としては、フッ素系液体の使用規制動向を踏まえ、代替として炭化水素系やシリコンオイル系の冷却剤が国内外で研究・開発が加速しています。
環境規制(PFAS問題など)が冷媒選びに与える影響
近年、フッ素化合物(PFAS)に対する国際的な環境規制が強化されています。これに伴い、一部の主要メーカーがフッ素系冷媒の製造終了を発表するなど、市場環境が変化しています。
長期的な運用を考える場合、環境負荷が低く、将来にわたって安定供給が見込める冷媒(生分解性のある合成油など)を選定することが、事業継続性の観点から重要です。
欧州化学品庁(ECHA)を中心に進められているPFAS(全ての多種フッ素系化学物質)への包括的規制案は、2027年に欧州委員会と加盟国で最終決定される予定で、その18か月後(2028年末~2029年初頭)に発効する可能性が高いと評価されています。
参考情報:
PFAS Update: Scrapping Prior Broader Proposal, EU Publishes Updated Narrower Proposal to Restrict the Manufacture, Use and Marketing of PFAS Chemicals
https://www.kirkland.com/publications/kirkland-alert/2025/10/pfas-update-scrapping-prior-broader-proposal-eu-publishes-updated-narrower-proposal-to-restrict-the
デスクトップPC・自作PCへの液浸冷却導入は現実的か?
次に、企業ユースではなく、個人や小規模オフィスでの「PC液浸」の可能性について触れます。
個人ユーザーが直面するハードル(水槽、密閉、保証切れ)
「ハイスペックなゲーミングPCを静かに冷やしたい」という意図で液浸冷却を検討する個人ユーザーもいますが、ハードルは極めて高いのが現実です。
保証の喪失: メーカー製PCやパーツを液体に浸した時点で、通常はメーカー保証の対象外となります。
専用ケースの不在: 個人向けの液浸冷却キットは市場にほとんど流通しておらず、水槽の自作や流用が必要です。
毛細管現象: ケーブル内部を伝って液体がタンク外に漏れ出す「毛細管現象」への対策(コネクタ部の封止など)が、DIYでは非常に困難です。
それでも挑戦したい!必要な機材と覚悟
どうしても導入したい場合、以下の要素が必須となります。安易な導入は機器の故障だけでなく、火災や漏水事故につながる恐れがあるため注意が必要です。
液浸冷却用に設計された専用の合成油(自作PCショップ等で稀に取り扱いあり)
油に対応したポンプとラジエーター(水冷用パーツの一部はゴムパッキンが膨潤するため使用不可の場合がある)
ストレージはSSDのみの構成にする(HDDは不可)
Tips:毛細管現象(Wicking)
液体が細い管の中を重力に逆らって移動する現象です。液浸冷却では、LANケーブルや電源ケーブルの被覆内部の隙間をオイルが登ってしまい、PCの外部接続端子側からオイル漏れを起こす事故が多発します。これを防ぐために、液面より上に特殊なコネクタを設けるなどの対策が必要です。
主要な液浸冷却メーカーとソリューションの動向
国内・海外の主要タンクメーカーと冷媒メーカーの役割分担
液浸冷却市場は、「タンク(ハードウェア)を作るメーカー」と「冷媒(化学品)を作るメーカー」、そしてそれらを統合する「SIer」に分かれています。
タンク・ソリューション: GRC (Green Revolution Cooling)、Submer、LiquidStackなどが世界的に有名です。国内ではKDDIや三菱重工など。
冷媒: Shell、Castrol、ENEOSなどの大手石油化学メーカー。
ENEOSはCES 2026で、データセンター向けの液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」や関連技術のデモを公開しました(2026年1月6日)。日本の消防法にあわせて3つのタイプがあり、引火点が250度以上かつ低粘度の「タイプJ」、低粘度で自動点火温度が300度以下の「タイプH」、石油由来ではない植物ベースの合成油でカーボンフットプリントを削減する「タイプB」があります。
(参考:ENEOSはEVやサーバを「油で冷やす」。DC向け液浸冷却液に注目)
コスモエネルギーは2026年1月に、データセンター向け液浸冷却液「コスモサーマルフルード」をラインナップに加えると発表しました。
(参考:データセンター向け液浸冷却液「コスモサーマルフルード」をラインナップし熱対策事業を強化)
株式会社TOSYSは、次世代コンテナ型データセンターのサービスを2月5日より開始すると発表しています(2026年2月)。
(参考:日本初!水冷・液浸を備えた次世代コンテナ型データセンター2026年2月5日よりサービス開始)
今後もこのような発表が続々と出され、液浸冷却が一般的になっていく未来が想像できますね。
自社に最適なパートナーを選ぶためのチェックリスト
メーカーやベンダーを選定する際は、以下の点を確認しましょう。
部材適合リストの有無: 使用予定のサーバー機材が、その冷媒で動作確認されているか。
保守サポート体制: 液体交換や定期点検のプロセスが確立されているか。
国内実績: 日本国内の消防法や建築基準法に準拠した設置実績があるか。
まとめ:液浸冷却は自社の課題解決になるか?
液浸冷却は、高密度化するITインフラの熱問題を解決する強力なソリューションですが、運用面での慣れや設備投資、法規制への対応といった「デメリット」も確実に存在します。
メリット: 圧倒的な冷却効率、静音性、防塵性、PUEの改善。
デメリット: メンテナンスの手間、重量、初期コスト、部材の適合性確認。
導入を検討する際は、単に「冷えるから」という理由だけでなく、運用のオペレーションまで含めたトータルコストで判断することが重要です。まずは小規模なPoCから始めるか、液浸冷却サービスを提供しているデータセンター事業者へのハウジングを検討するのが現実的な第一歩と言えるでしょう。
